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イスラエル・パレスチナ問題と世界の視線:映画「壁の外側と内側」から考える

日本経済新聞 2025年9月12日(金)朝刊春秋の要約とイスラエル・ガザ情勢

イスラエル軍の行いは、イスラエル人より世界の方が知っている――。パレスチナ問題を扱った公開中のドキュメンタリー映画「壁の外側と内側」で、そんな声が紹介されている。同国内ではガザの実態がほとんど報じられず、国民の目が惨状に向いていないというのだ。
▼ホロコーストを経験した民族の軍隊が、なぜパレスチナでは暴力的な攻撃や占領を続けるのか。そうした問題意識で現地を取材したという川上泰徳監督は「大勢の人々が知らされていないことが問題だと感じた」と話す。「長く中東取材に関わってきたが、今のガザは明らかに異常な状況。知れば放置できないはずなのに」
(有料版日経新聞より引用)



目次

映画「壁の外側と内側」が伝える現実

作品の概要と監督の思い

今回話題になっているドキュメンタリー映画「壁の外側と内側」。監督の川上泰徳さんは長年中東を取材してきたジャーナリストです。彼が注目したのは、「イスラエルの人々が自分の国の軍隊が行っていることを知らされていない」という事実でした。
映画ではガザの街の様子や、兵役を拒否する若者たちの姿が映し出されます。普段ニュースで断片的にしか触れられない現実が、映像を通して私たちの目に迫ってくるのです。

なぜ「イスラエル国内で知られていない」のか

「そんなことあるの?」と思う方も多いでしょう。イスラエルでは政府や軍の影響力が強く、ガザの悲惨な状況は国民にあまり伝わりません。たとえば国際NGOが公開している調査では、ガザでの死傷者数は国連の発表で毎年数千人規模に上るのに、国内ニュースで詳細に扱われることは少ないのです。
そのため、「世界の方がイスラエル軍の行いを知っている」という逆転現象が起きています。

兵役拒否の若者たちの姿

イスラエルには「徴兵制」があります。18歳になると男女問わず兵役につく義務がありますが、あえて拒否する若者も出てきています。映画には、そうした若者が「自分たちの世代でこの悪循環を止めたい」と語るシーンもありました。社会的には大きなリスクを背負う行為ですが、その勇気に共感する人も増えています。


ガザの現状と国際社会の視線

報じられない「日常の異常さ」

ガザ地区は人口約200万人の狭い土地に多くの人々が暮らしています。しかし電力や水が頻繁に不足し、医療機関も崩壊寸前。国連が2023年に発表した報告書では「人道的危機」と明記されました。
けれどもイスラエル国内では、この「異常な日常」が伝わらない。現地の声を聞けば「夜に電気がない生活なんて想像できますか?」といった訴えが多く、私たちの想像を超える現実があることが分かります。

国際法から見た問題点

国際法の基本ルールは「民間人を攻撃してはいけない」というものです。にもかかわらず、学校や病院が攻撃対象になるニュースが絶えません。国際人権団体アムネスティの報告によれば、国際法違反とみられる攻撃が複数回確認されています。
つまり「戦争だから仕方ない」ではなく、国際社会が是正を求めるべき深刻な問題なのです。

停戦交渉とカタール空爆の衝撃

コラムでも触れられていたように、停戦交渉を仲介していたカタールがイスラエルに空爆された、という驚きのニュースがありました。交渉役に攻撃を加えるのは、橋を自ら壊すようなもの。交渉が崩れれば、多くの市民が被害を受け続けることになります。
「なぜそんな行動に出たのか?」と誰もが疑問を持ちますが、これは政治的な強硬姿勢を示すためとも言われています。


イスラエル国内の葛藤

人質解放を求める抗議デモ

イスラエル国内にも現状に疑問を持つ人々はいます。特に人質解放が進まないことに対し、家族や市民が抗議デモを繰り広げています。首都テルアビブでは数万人規模の集会が開かれたこともあり、国民の不満は確実に高まっています。

政府への批判と支持の分断

一方で「軍を支持することが愛国心」という考え方も根強いのが現実です。結果として国内は二つに割れ、「批判すべき」「支持すべき」と意見が真っ向から対立しています。こうした分断は日本の社会でも想像できる部分があるかもしれません。

「知らされない国民」と世界の情報格差

SNSや国際メディアを通じて情報を得る人は増えましたが、それでも全体から見れば少数派。大部分の市民はテレビや新聞の情報だけを頼りにしており、そこで何が伝えられるかによって意識が大きく変わります。
世界からの厳しい批判が国内に届かないのは、この情報格差のせいでもあるのです。


歴史的背景と「ホロコーストの記憶」

なぜ加害者と被害者の立場が交錯するのか

イスラエルの人々はホロコーストという悲劇を経験した民族です。けれどもその記憶を持つ軍隊が、パレスチナで加害者になってしまっている。ここに大きな矛盾が存在します。
この矛盾は「過去の悲しみをどう未来に生かすのか」という問いに直結しています。

歴史をどう未来に生かすべきか

歴史学者の間でも「被害者の経験がそのまま他者への理解に結びつくわけではない」と言われています。むしろ強い被害の記憶が「二度と自分たちが弱い立場にならないように」という行動に転化することもあるのです。
これは人間の心理として理解できますが、だからこそ外から冷静な視点で問いかける必要があります。

ジミー・カーター元米大統領の言葉

映画でも引用されていたカーター元大統領の言葉は、「市民は解決を望む。和平を阻むのは政治指導者だ」というもの。実際に市民レベルでは対話や交流を望む声が強く、希望は存在しています。


国際法と和平の可能性

国際法が示す停戦・占領の基準

国際法には「占領地の住民の権利を守る」という条文があります。つまり、武力で土地を支配しても、そこで暮らす人の生活や安全を保障しなければならないのです。
ガザで起きている状況は、このルールに照らしても明らかに問題があります。

和平交渉が進まない本当の理由

なぜ和平が進まないのか。理由は複雑ですが、以下の要素が大きいです。

  • 政治指導者の強硬姿勢
  • 国内世論の分断
  • 国際社会の圧力不足
  • 経済や宗教など根深い対立

「解決が難しいから仕方ない」と諦める声もありますが、それは犠牲を続けることと同じ意味を持ちます。

政治指導者と市民社会のギャップ

カーター氏が指摘したように、市民と政治家の間には大きなギャップがあります。市民が望んでも、指導者が動かない。だからこそ国際世論がプレッシャーをかけることが不可欠です。


日本から見たパレスチナ問題

報道の少なさと私たちの距離感

日本では中東のニュースは一部しか報じられません。「遠い国の話」と思ってしまいがちですが、実は日本企業や国連機関を通じて多くの支援が行われています。私たちが無関心でいれば、政治的圧力も弱まってしまいます。

NGOや国際機関の活動事例

例えば国境なき医師団(MSF)はガザで医療活動を続けています。日本のNGOも教育支援や食糧援助を行っています。こうした活動を知るだけでも「自分には何もできない」という気持ちが変わってきます。

「知ること」が行動の第一歩

まずは「知る」こと。これが最大の行動です。記事や映画を通じて現状を知り、周囲に伝えるだけでも意味があります。SNSでシェアする、募金をする、関心を持つ――それが少しずつ変化を生みます。


読者ができること

中東問題を学ぶための資料・映画・書籍

  • ドキュメンタリー映画「壁の外側と内側」
  • 国連やNGOの報告書(日本語版も公開されています)
  • 入門書「パレスチナ問題100のポイント」など

情報の見極め方(フェイクニュース対策)

中東問題はフェイクニュースも多く出回ります。信頼できる国際機関や複数のメディアから確認することが大切です。SNSだけで判断しないようにしましょう。

日本における関心の高め方

  • 大学や自治体の公開講座に参加する
  • NGOイベントに足を運ぶ
  • 自分の生活に引き寄せて考える(税金がどのように国際協力に使われているか)

まとめ

春秋コラムが伝えていたのは「知らないままでいてはいけない」というシンプルだけど重いメッセージでした。イスラエルやパレスチナの人々にとって日常となってしまった暴力は、国際社会が見過ごせばさらに深刻になります。
映画「壁の外側と内側」は、私たちに「まずは知ること」から始めようと促しています。遠い国の問題に思えるかもしれませんが、人間の尊厳という点で私たちともつながっています。



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