日本経済新聞 2025年9月25日(木)朝刊春秋の要約と「政治における理念の力
NHKの「みんなのうた」で時々流れる「校長センセ宇宙人説」は「人をゆるしなさいが口ぐせで」「『戦争のない星を作るのは君らの仕事です』が決めゼリフ」といった歌詞。ジーンとくるところがあって、見入っているうちにいつの間にかすっかり覚えてしまった。
▼それで経済学者のハイエクが、古い真理を人の心に残そうとするなら新しい言葉で何度も言い直さなくてはならないと言っていたのを思い出した。最新の曲調とゴスペル風のコーラスで歌われるのは、第2次大戦後に日本国憲法の前文や世界人権宣言、国連憲章などで高らかにいわれた人類社会の理念とも聞こえるからだ。
校長センセ宇宙人説とは?
NHK「みんなのうた」で放送された曲

NHK「みんなのうた」は1960年代から続く長寿番組で、子どもから大人まで幅広い世代が親しんできました。その中で「校長センセ宇宙人説」は、ひときわユニークで印象的な歌です。
校長先生を「宇宙人」に見立て、ユーモラスな視点から「人をゆるしなさい」「戦争のない星をつくるのは君らの仕事です」といったメッセージを投げかけます。
教育的でありながら堅苦しくなく、歌を通じて自然に平和や人権について考えるきっかけを与えてくれます。
歌詞に込められたメッセージ
この歌の一番大切なポイントは「ユーモアを交えながらも理念を伝えている」ことです。
「戦争をなくそう」と真面目に言われると、子どもには難しく響きます。
けれど「校長センセは宇宙人なんだよ」と笑いながら話されると、自然と心に届くのです。
これは理念を人に伝えるときの大きなヒントです。
経済学者ハイエクの言葉
古い真理を新しい言葉で語る意味
フリードリヒ・ハイエクは、自由主義経済の思想家として知られています。彼の言葉にあるのは「古い真理を残したいなら、新しい言葉で何度も語らなければならない」という考え方です。
理念や真理は、一度伝えただけでは人々の記憶から消えてしまいます。繰り返し、そしてその時代の言葉で語り直すことで、はじめて人々の心に根づきます。
21世紀に響くハイエクの思想
例えば「自由」という言葉。戦後の人々には切実に響いたはずですが、今の子どもたちには少し遠い言葉かもしれません。
けれど「自由とは、安心して学校に通えること」や「自由とは、誰もが自分らしく働けること」と言えば、もっと実感として伝わるでしょう。
これは、現代のSNSや動画文化にも通じます。140字の短文や30秒の動画で理念をどう表現するか。ハイエクの思想は、今の情報社会にも大きな示唆を与えています。
政治家や教育者が学べるヒント
理念を伝えるときに大事なのは「生活者の目線」です。
母親が子どもに話すような言葉、日常で自然に出てくる表現で語ること。
これが政治にも教育にも必要なのです。
戦後の理念と今の政治
日本国憲法前文にある理想
戦後日本は「二度と戦争を繰り返さない」という強い思いのもとに憲法が制定されました。前文には「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して」生きるという理念が明記されています。
これは単なる法律ではなく、未来への希望の宣言でした。
世界人権宣言・国連憲章が掲げた希望

同時期、国連憲章や世界人権宣言でも、人類全体が「すべての人の尊厳と権利を守る」ことを誓いました。
理念は抽象的ですが、世界をまとめるためには不可欠でした。
理念が「古いもの」扱いされがちな現状
しかし現代日本の政治を見ると、理念を語る場面が減ってきています。
現実的な課題や即効性のある政策が優先され、「理念はきれいごと」と見られることも少なくありません。
自民党総裁選と国際問題
総裁選で語られない「理念」
現在の自民党総裁選では、防衛費や経済政策は議論されても「人権」「国際協力」といった大きな理念は影を潜めています。
安全保障・移民・人権―なぜ大きな言葉が少ないのか
理由はシンプルです。理念は票になりにくいからです。
抽象的でわかりにくく、対立を生む可能性もある。だから政治家はあえて避けがちなのです。
リアリズムの政治と「損得」の議論
しかし、理念を排除したリアリズムだけの政治は、社会を数字と損得勘定でしか見なくなります。
人々が安心して暮らせる社会には、理念が土台として必要です。
国連総会とトランプ流の自国中心主義

トランプ前大統領の演説とその特徴
国連総会でのトランプ前大統領の演説は、常に「アメリカ第一」が中心でした。国際協調よりも自国優先を強調し、世界の共感を得にくいスタイルでした。
国際協力と自国優先のせめぎ合い
地球温暖化や紛争といった問題は、一国では解決できません。
だから本来は国際協力が必要ですが、自国優先の姿勢はその流れに逆行します。
世界は理念を必要としているのか?
こうした姿勢への反発が、逆に「やはり理念が必要だ」という思いを強めています。
理念がなければ、国際社会はただの利害調整の場になってしまうのです。
理念に飢えた時代の人々
「殺風景さ」に疲れた国民感情
現実的な数字や利益だけを追う政治や社会は、どこか乾いた印象を与えます。
人々は無意識に「もっと心に響くもの」を求めています。
歌や文化が示す理念の力
だからこそ、歌や芸術が人々の心を動かします。理念を文化の形で伝えると、押しつけがましくなく、自然に受け止められます。
カラオケで「校長センセ」を歌ったときの沈黙の意味

記事でも紹介されているように、この歌をカラオケで歌った後、場がしんとなることがあります。
それは、笑いながらも最後に胸に残る「理念」の力です。
政治に理念を取り戻す方法
ハイエクの言葉をどう生かすか
理念を「そのまま繰り返す」のではなく、「現代に通じる新しい言葉」に置き換えること。
これが、政治に理念を取り戻す第一歩です。
わかりやすい言葉で理念を語ることの大切さ
理念は抽象的なままだと伝わりません。
「平和」ではなく「子どもが安心して眠れる夜をつくる」。
「人権」ではなく「誰もが安心して病院に行ける」。
生活に直結する言葉なら、誰にでも響きます。
女性・子育て世代から見た「理念ある政治」の必要性
特に子育てや介護を担う女性にとって、理念は日常と直結しています。
「すべての人が尊重される社会」という理念があるから、支援制度が守られるのです。
まとめ:理念と現実のバランスを考える

理念は「役に立たないもの」ではない
理念は政策の方向を示す羅針盤です。夢物語ではなく、社会をつくる土台です。
政治家が理念を語ると社会はどう変わるか
理念を語る政治家が増えれば、損得ではなく「人を大切にする政治」が根づいていきます。
一人ひとりが理念を持つことの意味
理念は政治家だけのものではありません。
私たち一人ひとりが「こんな社会にしたい」と考え、口にすることで、少しずつ社会は変わります。
結論
春秋が示したのは、理念を忘れがちな現代社会に対する静かな警鐘でした。
歌や文化の力を借りながら、理念を今の言葉で語り直すこと。
それが政治にも社会にも必要な営みです。
理念は遠いものではなく、私たちの生活に寄り添うもの。
校長センセの「戦争のない星を作るのは君らの仕事です」という言葉を胸に、私たちもまた「理念を生きる一人」になることが求められているのではないでしょうか。