お正月休み、いかがお過ごしでしょうか。
こたつに入って、みかんを片手にテレビをつけると、そこには毎年変わらない「箱根駅伝」の光景があります。
ひたむきに走る学生たちの姿にはもちろん感動するのですが、私が毎年楽しみにしている「もうひとつのドラマ」があります。
それは、中継の合間にふと流れる、サッポロビールのCMシリーズです。
メインキャラクターの妻夫木聡さんが、不思議なエレベーターに乗って、様々な年齢の「大人」たちに会いに行く物語。
「あ、大人の階段のやつね!」と思った方も多いかもしれません。
実はあのCM、タイトルは「大人エレベーター」といいます。
なぜ階段ではなくエレベーターなのか。そして、なぜあんなにも私たちの心を揺さぶる言葉が出てくるのか。
今回は、箱根駅伝の裏の主役とも言えるこの名作CMについて、歴代ゲストたちの名言と共に、その深い哲学をじっくりと紐解いていきたいと思います。
仕事に、家庭に、人間関係に。
日々迷いながらも歩みを進める私たちにとって、彼らの言葉はきっと、明日を生きるための小さな灯りになるはずです。
なぜ箱根駅伝の合間に流れる「60秒の静寂」に惹かれるのか
お正月の家族団らん。テレビからは実況アナウンサーの絶叫や、沿道の歓声が賑やかに聞こえてきます。箱根駅伝は、まさに「動」のエネルギーに満ちたお祭りです。
しかし、CMに入った瞬間、空気が一変します。
精神的な給水ポイントとしての静寂
画面に映し出されるのは、少し照明を落としたバーや、落ち着いた和室、あるいは静かな書斎。
聞こえてくるのは、グラスの氷がカランと溶ける音や、ビールを注ぐ音、そして静かな話し声だけ。
箱根駅伝の放送枠では、通常の15秒や30秒ではなく、60秒以上の「ロングバージョン」が放映されることが多いのをご存知でしょうか。
熱狂的なレースの映像で高ぶった神経が、この静寂によってスッと鎮められる感覚。
それはまるで、私たち視聴者にとっても精神的な「給水ポイント」のような役割を果たしています。
この「動」と「静」のコントラストこそが、このCMが強烈に記憶に残る理由のひとつです。
妻夫木聡さんと共に重ねる「年輪」
このシリーズが始まったのは2010年。もう干支が一周するほどの長い歴史があります。
開始当初、妻夫木聡さんはまだ20代でした。
最初の頃の彼は、圧倒的なオーラを放つ先輩たち(ゲスト)を前に、どこか緊張した面持ちで、教えを請うような「若者」の顔をしていました。
しかし、シリーズを重ねるごとに彼自身も30代、40代へと年齢を重ねていきます。
最近のCMを見ていると、彼がゲストの話に深く頷いたり、時には自分の意見を返したりと、対等に近い目線で語り合っている姿が見受けられます。
妻夫木さんの成長自体が、ひとつのドキュメンタリーになっているのです。
私たちもまた、彼と一緒に年を取りました。だからこそ、今の妻夫木さんが投げかける質問や、ふとした表情に、深く共感してしまうのかもしれません。
「丸くなるな、星になれ」に込められた本当の意味
このCMシリーズを語る上で欠かせないのが、「大人エレベーター」という設定と、そこに込められたメッセージです。
年齢は「登る」ものではなく「移動する」もの
一般的に、年齢を重ねることは「階段を登る」と表現されがちです。そこには、体力が落ちていく切なさや、若さを失う寂しさが少し含まれているように感じます。
しかし、このCMでは年齢を「階数(フロア)」と捉えています。
0歳から100歳まで、すべての年齢が同じ建物の中に並列に存在しているイメージです。
上の階に行くことは、老いることではありません。
「より高い場所へ行き、より遠くの景色が見渡せるようになること」。
そう定義し直すことで、加齢は「喪失」から「進化」へと意味を変えます。
「50階からの眺めはどうですか?」
「60階の空気はおいしいですか?」
そんなふうに、未来の自分に会いに行くようなワクワク感を、このエレベーターという装置は与えてくれます。
尖ったままで輝くという選択

そして、シリーズを通じて掲げられているキャッチコピーが「丸くなるな、星になれ。」です。
私たちはよく「あの人も丸くなったね」という言葉を、大人になった、分別がついた、という意味で使います。
社会に適応するために、若き日の角を削り、摩擦を避けて生きていく。それもまた、ひとつの処世術でしょう。
でも、サッポロビールは問いかけます。「本当にそれでいいの?」と。
丸くなって誰かと同化するのではなく、自分の個性を尖らせたまま、夜空で自ら光を放つ「星」であれ。
このメッセージは、企業としての商品への誇りであると同時に、箱根駅伝を走るランナーたちの姿そのものでもあります。
彼らは、過去の記録や常識に挑み、自分自身を極限まで研ぎ澄ませています。
そんな彼らの姿と、このCMのメッセージが重なるからこそ、お正月のこの時期、私たちの胸に熱いものが込み上げてくるのです。
【完全解説】歴代ゲストたちが遺した「人生の金言」
ここからは、歴代のゲストたちが「大人エレベーター」の中で語った言葉を、詳しく解説していきます。
単なる名言集として読むだけでなく、その言葉が生まれた背景や、今の私たちの生活にどう活かせるかという視点で読み解いてみましょう。
1. 破壊と創造の巨匠たち:常識を疑う強さ
まずは、シリーズ初期を支え、その世界観を決定づけた巨匠たちの言葉です。彼らは一様に、世間の常識を軽やかに笑い飛ばしてくれます。
北野武さん(64階)
大人とは、裏切られた数のことだ
私たちは、人から裏切られたり、期待外れの結果に終わったりすることを「傷ついた」と捉えがちです。しかし、北野さんはそれを「大人の証」だと定義します。
裏切られた数だけ、人の痛みを知り、世の中の複雑さを理解できる。そう考えれば、過去の辛い経験も、成熟するための「スコア(得点)」のように思えてきませんか。
箱根駅伝でも、予選会での敗退や途中棄権など、残酷なドラマが生まれます。しかし、その敗北を知る者こそが、本当の意味で強くなれるのだと教えてくれます。
常識は、疑うためにある
お笑い芸人として、映画監督として、常に既存の枠組みを壊し続けてきた彼だからこそ言える言葉。
「普通はこうするでしょ」という同調圧力に息苦しさを感じた時、この言葉がお守りになります。
坂本龍一さん(58階)
不協和音も、美しい
美しい音楽とは、調和のとれた音だけで作られるのではありません。ノイズや不協和音が含まれているからこそ、楽曲に深みが生まれます。
人生も同じではないでしょうか。順風満帆なだけの人生よりも、矛盾や葛藤、失敗という「不協和音」を含んだ人生のほうが、振り返った時に美しい。
完璧主義に疲れてしまった時に、ふと思い出したい言葉です。

壁は、扉だ
目の前に立ちはだかる高い壁。それは行き止まりではなく、それを乗り越えた先に新しい世界が広がる「入り口(扉)」なのだという視点の転換です。
箱根駅伝の最大の難所、山登りの5区。あのような物理的な壁に挑む選手たちの背中を、この言葉が優しく、強く押しているように感じます。
庵野秀明さん(56階)
欠落こそが、オリジナリティ
エヴァンゲリオンなどの作品で知られる庵野監督。完全無欠なヒーローではなく、どこか欠けた部分を持つキャラクターを描き続けてきました。
「自分にはこれが足りない」と嘆く必要はありません。その欠けている部分こそが、あなただけの形であり、魅力なのですから。
2. アスリートの哲学:極限を知る者の言葉
箱根駅伝のファンに最も響くのが、トップアスリートたちの言葉です。彼らの言葉には、身体的限界と向き合った者だけが持つリアリティがあります。
田中将大さん(25階)
プレッシャーは、空気だ
当時、メジャーリーグへの挑戦という巨大な期待と不安の中にいた田中さん。
プレッシャーを「重荷」として背負うのではなく、吸って吐く呼吸のように、あって当たり前の「空気」として共存する。
仕事で大きなプロジェクトを任された時、この感覚を真似してみると、少し肩の力が抜けるかもしれません。
一瞬のために、一生をかける
マウンド上の数秒、あるいはバッターとの一球の勝負。その一瞬のために、膨大な時間を準備に費やす。
これはまさに、箱根駅伝の精神そのものです。たった1時間の走りのために、大学生活の4年間すべてを捧げる学生たち。
「コスパ」や「タイパ」では決して計れない、非合理なまでの情熱。それを全面的に肯定してくれる力強い言葉です。
内田篤人さん(32階)
傷跡は、地図になる
現役時代、度重なる怪我と手術に苦しんだ内田さん。身体に刻まれた傷跡は、ただの痛みの記憶ではなく、自分がどこを通り、どう生きてきたかを示す「地図」であると語りました。
挫折や失敗を「なかったこと」にして隠すのではなく、自分の歴史の一部として誇る。その潔さに心が震えます。
武豊さん(50階)
勝つことより、負けないこと
勝利は時の運や相手の状況にも左右される「水物」です。しかし、「負けない」という状態、つまり土俵に上がり続けるコンディションは、日々の鍛錬で維持できます。
一発屋で終わらず、何十年もトップで走り続けるレジェンドならではの「継続の哲学」です。
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3. 表現者・文化人たちの美学:生きるヒント
最後は、俳優、作家、ミュージシャンなど、言葉や表現のプロたちが語る、人生を豊かにするためのヒントです。
リリー・フランキーさん(48階)
無駄な時間が、人を育てる
効率化ばかりが求められる現代社会。しかし、妻夫木さんとお酒を酌み交わすCMの中の時間のように、一見生産性のない時間こそが、人間としての器を広げてくれることがあります。
「何もしない時間」を持つことに罪悪感を感じる必要はない。そう優しく諭されているようです。
逃げることも、戦いの一つ
困難に真正面からぶつかって砕け散ることだけが美徳ではありません。時には逃げて、身を守り、生き延びること。それもまた、立派な戦略であり、戦い方なのです。
星野源さん(35階)
普通を極めると、変態になる
自分は特別な才能がない「普通」の人間だと悩むことはありません。「普通」の感覚を誰よりも深く、徹底的に掘り下げていけば、それは誰にも真似できない「変態」の領域(オリジナリティ)に到達します。
大衆性を持ちながらも、常に新しいことに挑戦し続ける星野さんのクリエイティブの源泉がここにあります。
孤独は、共有できる
一人は寂しいけれど、音楽や文章、あるいはこのCMのような作品を通じて、「あの人も同じ孤独を感じているんだ」と知る瞬間があります。その時、私たちの孤独は点と点でつながり、共有されるのです。
松本隆さん(67階)
愛とは、余白のこと
すべてを言葉で埋め尽くすのが愛ではありません。言わないこと、待つこと、ただそばにいること。
このCMの映像演出も、あえてセリフのない「間」や「余白」を大切にしています。情報過多な時代だからこそ、この「余白」の豊かさが心に沁みます。
マツコ・デラックスさん(42階)
不幸があるから、幸せが輝く
「いつもポジティブでいなきゃ」という風潮に、少し疲れてしまうことはありませんか。
影があるから光が際立つように、辛いことや不幸なことがあるからこそ、小さな幸せが輝いて見える。ネガティブな感情も否定せず、丸ごと受け入れるリアリズム。マツコさんの言葉には、深い包容力があります。

【階数別リスト】歴代ゲスト一覧
「あの俳優さんは何階で出ていたっけ?」
そんな時のために、主要な歴代ゲストを階数(年齢)順に整理しました。
若い順に並べてみると、それぞれの年代で抱えるテーマが移ろっていく様子が見えてきます。
20代・30代:迷いと挑戦のフロア
若さとエネルギーに溢れていますが、同時に将来への不安や、自分の立ち位置に対する迷いも垣間見える世代です。
| 階数 (年齢) | ゲスト名 | 職業 | この世代のテーマ |
| 25F | 田中 将大 | 野球選手 | 世界への挑戦、プレッシャーとの対峙 |
| 27F | 常田 大希 | 音楽家 | 混沌からの創造、新しい時代の感性 |
| 32F | 内田 篤人 | サッカー | 挫折からの再生、傷ついた経験の肯定 |
| 35F | 星野 源 | 表現者 | 普通であることの強さ、孤独の共有 |
40代・50代:成熟と深化のフロア
社会的な責任も増し、酸いも甘いも噛み分けた世代。自身のスタイルを確立しつつ、次世代への眼差しも優しくなっています。
| 階数 (年齢) | ゲスト名 | 職業 | この世代のテーマ |
| 42F | マツコ・デラックス | タレント | 影(ネガティブ)を肯定するリアリズム |
| 44F | 宮藤 官九郎 | 脚本家 | 失敗を笑い飛ばす寛容さ |
| 46F | チバユウスケ | 音楽家 | 理屈ではなく本能で走り続ける美学 |
| 48F | リリー・フランキー | 文筆家 | 無駄の効用、逃げるという選択肢 |
| 49F | 奥田 民生 | 音楽家 | 脱力、自然体でいることの凄み |
| 50F | 武 豊 | 騎手 | 勝つことよりも、負けないこと |
| 52F | 中井 貴一 | 俳優 | 伝統の継承と、それを背負う覚悟 |
| 56F | 佐野 元春 | 音楽家 | 組織に縛られない個の自由 |
| 56F | 庵野 秀明 | 監督 | 欠落こそが個性であるという救い |
| 58F | 坂本 龍一 | 音楽家 | 矛盾を含んだ美しさ、壁を扉に変える |
60代以上:達観と真理のフロア
もはや競争のステージを超越し、人生の本質を語る賢者たち。ユーモアの中に、ハッとするような真理が含まれています。
| 階数 (年齢) | ゲスト名 | 職業 | この世代のテーマ |
| 60F | Char | ギタリスト | いつまでも遊び心を忘れない |
| 64F | 北野 武 | 芸人/監督 | 常識への疑い、生と死の隣接 |
| 67F | 松本 隆 | 作詞家 | 余白の美学、沈黙の愛 |
| 69F | 鈴木 敏夫 | プロデューサー | 物事を俯瞰する眼、戦略的な生き方 |
| 71F | 高田 純次 | 適当男 | 深刻になりすぎないためのユーモア |
| 72F | 田中 泯 | 舞踊家 | 原初的な身体感覚への回帰 |
| 82F | 仲代 達矢 | 俳優 | 未完の美、死ぬまで続く修行 |
終わらない旅路:私たちは「大人」を探し続ける
こうして歴代のゲストたちの言葉を振り返ってみると、あるひとつの事実に気づかされます。
それは、「大人」というものに完成形はない、ということです。
「戦え」という人もいれば、「逃げろ」という人もいる。
「勝て」という人もいれば、「負けるな」という人もいる。
一見矛盾しているように見えますが、それこそが人生の豊かさなのかもしれません。
正解が一つではない時代において、自分なりの答えを模索し、変化し続けること。それ自体が「大人になる」というプロセスなのでしょう。
サッポロビール「大人エレベーター」が私たちに提示しているのは、特定のゴールではなく、「迷ってもいい」「問い続けよう」という温かい肯定のメッセージです。
これは、毎年メンバーが入れ替わり、決して同じレースにはならない箱根駅伝とも深く共鳴します。
走る学生たちも、それを見守る私たちも、それぞれのペースで、それぞれの「階数」を目指して進んでいるのです。

今年もまた、妻夫木聡さんはエレベーターに乗ります。
次は誰に会い、どんな言葉を引き出してくれるのでしょうか。
お正月の穏やかな空気の中で、おいしいビールやお茶を飲みながら、この美しい60秒間の物語に耳を傾けてみてください。
きっと、新しい一年を生きるための、あなただけの「金言」が見つかるはずです。
「丸くなるな、星になれ。」
私たちもまた、自分だけの光を放つ星でありたいですね。
「私」という物語にも、乾杯を。
箱根駅伝の選手たちが、仲間とたすきを繋ぐ姿。 それを見ていると、不思議と胸が熱くなって、「私もまた明日から頑張ろう」という勇気が湧いてきますよね。
そんな感動の余韻に浸りながら、今年の冬はちょっと特別な時間を過ごしてみませんか?
サッポロビールが掲げる「乾杯をもっとおいしく」。 実はこれ、選手へのエールであると同時に、毎日をひたむきに走り続ける「あなた自身」にかける魔法の言葉でもあるんです。
忙しい日常の中で、ふと立ち止まり、自分を大切にする時間を持つこと。 洗練された「黒ラベル」のグラスを傾け、その完璧なバランスとクリーミーな泡を味わう瞬間は、大人の女性だけが知っている「心をリセットする贅沢な魔法」です。
お正月限定の華やかな「箱根駅伝缶」や、いつもの食卓をランクアップさせる特別な黒ラベル。 ぜひ、感動のドラマと共に、あなた自身の素敵な物語にも「乾杯」してみてくださいね。









