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総理のイスを蹴飛ばした男から学ぶ、今の日本政治への問いかけ

日本経済新聞 2025年9月9日(火)朝刊春秋の要約と総裁選


イクヤマイマイ、オヤイカサカサ……。大学受験で日本史を選択した方にはなじみの呪文かもしれない。伊藤博文、黒田清隆と続く歴代首相名の冒頭1音をつなげた暗記法だ。時の流れとともに呪文は長くなる。頻繁に1文字延びる現状に、未来の受験生の負担も増す。

「総理大臣が何度も代わり名前が忘れられても、総理を断った人の名前だけは世間は忘れない」。死後、自民党の重鎮からそんな言葉で追悼されたのが伊東正義氏だ。リクルート事件で竹下首相が退陣、清廉さから後任に名が挙がるも持病を理由に拒否した。「表紙を変えても中身が同じではダメ」との言葉が印象に残る。

(有料版日経新聞より引用)


歴代首相の名前をリズムに乗せて覚える呪文。日本史を学んだ方なら、一度は耳にしたことがあるかもしれません。「イクヤマイマイ、オヤイカサカサ……」。これが実際に役立ったかどうかは人それぞれですが、暗記のリズムにはどこか懐かしさと可笑しみが漂います。けれど、そのリズムの裏に隠れているのは、日本の政治がいかに頻繁に「トップ交代」を繰り返してきたか、という現実でもあります。

そして今日のコラムでは、その流れを背景に「総理を断った男」、伊東正義氏が取り上げられました。彼の生き方や言葉は、今の私たちが政治を考える上で大きなヒントになるのではないでしょうか。


まず、伊東正義という人物は「誠実さ」で知られていました。リクルート事件という日本の政治史に残る大スキャンダルのさなか、竹下登首相が退陣し、次の総理候補に名前が挙がったのが伊東氏です。多くの人が「彼なら政治を立て直せるのでは」と期待したはずです。けれど本人は、その提案を固辞しました。理由は持病とされていますが、本音はもっと複雑だったでしょう。

伊東氏は「表紙を変えても中身が同じではダメ」と語っています。つまり、総理という肩書きが新しくなっても、政治の体質が変わらなければ国民の信頼は回復しない。彼はそのことを誰よりも分かっていたのだと思います。

この言葉は今も鮮烈です。なぜなら私たちは時に「顔ぶれの新しさ」ばかりに目を奪われがちだからです。選挙や総裁選で、新しいリーダーの名前が挙がると、それだけで何かが変わると期待してしまう。けれど、仕組みそのものが変わらなければ、生活は大きく変わらないのかもしれません。

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さらに彼が残したもう一つの言葉、「花咲か爺さん」の比喩も興味深いものです。枯れ木に灰をまいて花を咲かせる老人の昔話を引き合いに出しながら、伊東氏は「オレに花咲か爺さんになれといっても無理だ」と語ったといいます。これはきっと、自民党という「枯れ木」に灰をまいたところで、本当の花が咲くことは難しい、という率直な思いだったのではないでしょうか。

政治に万能な魔法はありません。たとえ誠実な人がトップに立ったとしても、一人で全てを変えることはできないのです。この正直さこそが、彼が「総理を蹴った男」として記憶に残った理由でしょう。


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ここから現代に目を移しましょう。2025年の今、自民党の総裁選が始まろうとしています。ニュースでは候補者の顔ぶれや派閥の動きが大きく取り上げられています。けれど、伊東氏の言葉に照らすと、私たちが見るべきなのは「誰がトップになるか」だけではありません。その人がどんな政策を掲げ、どのように実現しようとしているのか。中身に目を向ける必要があるのです。

実際に、生活者の目線から見れば政治に求めたいことはとてもシンプルです。

  • 子育てや教育の安心
  • 医療や介護の安定
  • 物価高の中での暮らしやすさ
  • 災害や気候変動に備える仕組み

これらは派手なスローガンよりも、日常の生活に直結するテーマです。総裁選の候補者たちがこうした課題にどう答えているのか、冷静に比較していくことが大切です。


「首相の交代が多すぎる」という点も忘れてはいけません。歴代首相を暗記する呪文が長くなるほど、政治の安定感は薄れていきます。欧米諸国では首相や大統領が長期にわたり政権を担う例が少なくありません。対して日本は頻繁な交代が続いてきました。この背景には、政党内の力学や派閥の事情がありますが、国民の側からすると「また代わったの?」と疲れてしまうのが本音ではないでしょうか。

つまり、リーダーが短期間で変わることが、必ずしも「刷新」につながるわけではないのです。むしろ「誰がやっても同じ」と感じさせる政治不信につながりやすい。伊東氏の「表紙と中身」の指摘は、まさにこの点を突いています。


では、どうすれば「中身」を変えることができるのでしょうか。これは政治家だけに求めることではありません。私たち有権者自身が「中身」を見ようとする意識を持つことが第一歩です。

例えばニュースを見るとき、次のような視点を意識してみると理解が深まります。

  • 候補者が掲げる政策は具体的か、それとも抽象的なスローガンか
  • 財源や実現方法に触れているか
  • 生活者の課題に即した内容になっているか
  • 過去の発言や行動と一貫しているか

こうした視点で見ていくと、単なる「顔ぶれ」報道の先にある「中身」が見えてきます。


女性の生活感覚から言えば、政治は台所や子どもの学校、親の介護といった日常の延長線上にあります。

  • スーパーでの買い物が高くなった
  • 保育園の待機児童が解消されない
  • 年金や介護サービスへの不安が募る

こうした実感を「政治の話」と切り離す必要はありません。むしろ「これは政治の問題なんだ」と気づくことが、社会を変えるきっかけになります。

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伊東氏のように「自分一人では花を咲かせられない」と正直に語る政治家は少数派かもしれません。でも、私たち一人一人が「灰をまく人」になれるのではないでしょうか。投票や日常的な声の積み重ねが、やがて社会に花を咲かせる力になるのだと思います。


最後にもう一度、日経の春秋コラムの締めを思い出しましょう。筆者は「現在の枯れ木とは日本という国や議会制民主主義そのものではないか」と問いかけていました。表紙を変えるだけでなく、中身をどう変えるか。これは政治家だけでなく、国民である私たち全員に向けられた問いです。

総裁選がニュースを賑わせる時期だからこそ、冷静に観察し、暮らしに直結するテーマに目を向けることが必要です。候補者のパフォーマンスや派閥の動きに惑わされず、「中身」を問い続ける。そうした姿勢が、未来を変えていく力になるのではないでしょうか。


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