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ノーベル化学賞 北川進教授の哲学「無用の用」と未来を変えるMOFの可能性

日本経済新聞 今日の日付(2025年10月10日 金曜日)朝刊春秋の要約とMOF、研究者の資質

💡 「春秋」で触れられた北川進先生の信念と哲学

今回の記事のきっかけとなった日本経済新聞「春秋」の冒頭二段落を引用します。

「無用の用」。中国の思想家荘子の教えで、役に立たないものの中に価値があるという意味だ。ノーベル化学賞に決まった北川進さんは学生時代に湯川秀樹博士の著書で知り、研究生活の支えにしてきたそうだ。一昨日、快挙が伝えられた後の記者会見でも挙げていた。

授賞理由の金属有機構造体(MOF)。金属と有機分子を組み合わせて狙った物質を自在にとじ込める、などと聞いても門外漢にはピンとこない。だが、照らす地平の広大さに「用」の重みを実感する。脱炭素はじめ創薬、半導体製造……。「人類が直面する大きな課題の解決につながる可能性がある」との評価は当然だ。

(有料版日経新聞より引用)

この記事では、北川進先生の受賞の背景に、「無用の用」という哲学と、「運・鈍・根」という研究者としての信念があったことを紹介しています。

そして、その成果であるMOF(金属有機構造体)が、いかに私たちの未来に大きな影響を与えるかを伝えています。



目次

🔎 この記事で知りたいこと—読者の疑問を解消するキーワード

今回のコラムを読んで、読者がさらに情報を求めて検索するであろうキーワードと、その際に知りたいであろう情報は以下の3つに集約できます。

検索キーワード読者が知りたいこと(疑問)記事での役割
MOF (金属有機構造体)MOFって具体的に何?どうしてノーベル賞なの?私たちの生活にどう役立つの?科学的な成果を分かりやすく解説
無用の用どんな意味?なぜ研究の支えになったの?北川先生の哲学と人柄の紹介
運・鈍・根どんな意味?どうして大切なの?研究者以外にも役立つの?研究者としての資質と普遍的な教訓の紹介

これらの疑問に答える形で、記事を構成していきます。


💎 私たちの未来を変える新素材 MOF(金属有機構造体)とは?

ノーベル化学賞の受賞理由となったMOF(モフ、金属有機構造体:Metal-Organic Frameworks)。名前は難しそうですが、私たちの暮らしを大きく変える可能性を秘めた「夢の新素材」なんです。

MOFって、どんなもの?

一言でいえば、「極めて小さな”かご”や”スポンジ”を無数に持った物質」です。

MOFは、金属のパーツと有機分子(炭素を骨格とする分子)のパーツをレゴブロックのように規則正しく、カチッとはめ込んで作られています。この構造の内部には、蜂の巣やスポンジのように、目に見えないほど小さな穴(細孔)がたくさん開いています。

🧪 MOFのすごさを理解するポイント

MOFのすごさは、その「穴」にあります。

特徴具体的なイメージとすごさ
圧倒的な表面積たった1グラムのMOFを広げると、テニスコート一面分(約3000〜7000 m2)以上の表面積になります。これは、物質を吸着させる能力が非常に高いことを意味します。
「設計図通り」に作れる穴の大きさや形、性質を、金属と有機分子の「設計図」を変えることで、自由自在にコントロールできます。特定の分子だけを選んで捕まえたり、反応させたりできるのが画期的です。

なぜノーベル賞に?MOFの「用途の広大さ」

MOFは、この「穴」を活かして、様々な物質を「選んで捕まえる」「閉じ込める」「運ぶ」といった、従来の素材では難しかった役割を果たします。これが「人類が直面する大きな課題の解決につながる可能性がある」と評価された理由です。

🌍 MOFが活躍する未来のフィールド

活躍分野MOFが解決できる課題具体的なイメージ
脱炭素・環境地球温暖化の原因となる二酸化炭素 (CO2​) を効率よく回収・分離する。工場や発電所の排ガスから CO2​ だけを捕まえる「高性能な空気清浄機」の役割。
医療・創薬薬の成分を「穴」に閉じ込め、病気の患部など必要な場所にだけ届ける。副作用を減らし、効果を高める「ピンポイント配達」のドラッグデリバリーシステム。
エネルギー水素ガスやメタンガスなどのクリーンなエネルギーを、安全かつ高密度に貯蔵・輸送する。次世代自動車のための「高効率な燃料タンク」としての応用。
半導体・化学特定の物質だけを分離したり、化学反応を促進させたりする。非常に純度の高い物質が求められる半導体製造プロセスの効率化。

このように、MOFは環境、エネルギー、医療といった、私たちの暮らしに直結する分野で、ゲームチェンジャーとなる可能性を秘めています。


🧘 研究の道標 「無用の用」—役立たずの中に潜む価値

北川先生が研究の支えとしてきたのが、中国の思想家・荘子の教えである「無用の用(むようのよう)」です。

「無用の用」ってどういう意味?

「無用の用」とは、「一見、役に立たないように見えるもの(無用)の中にこそ、本当に大きな価値(用)がある」という意味の哲学です。

🌳 身近な例で考える「無用の用」

この言葉は、科学の世界だけでなく、私たちの日常にも当てはまります。

表面的な「用」(一般的に価値があるもの)隠れた「無用」(見過ごされがちなもの)「無用の用」の例
規格に合う、便利な木材大きすぎて曲がりくねった大木建築には使えないため切られずに残り、大勢の人が休める日陰や憩いの場となる。
テストで高得点を取れる知識すぐには役に立たない趣味や雑学思いがけない発想人間関係を作るきっかけとなり、人生を豊かにする。

北川先生の研究においても、偶然見つかった蜂の巣状の穴の可能性は、当時の常識から見れば「ただの穴」であり、「無用」と見なされました。しかし、先生はその「無用」な構造に、未来を変える「用」が潜んでいることを見抜いたのです。

なぜ、この哲学が研究者を支えるのか

画期的な研究は、往々にして「常識外れ」から始まります。すぐに実用化できるかどうかわからない、理解されない期間が必ずあります。

研究者を支える「無用の用」の力
恐れずに挑戦できる:すぐに結果が出なくても、それが将来大きな価値を持つと信じられる。
広い視野を持てる:既存の価値観にとらわれず、「常識に反する」現象の中にこそ真のヒントを見つけ出せる。
批判に耐えられる:周囲の否定的な意見(「噓つき呼ばわり」など)に惑わされず、信念を貫くことができる。

「無用の用」は、短期的・経済的な価値だけでなく、長期的な視点と本質的な価値を見極める力を与えてくれる、研究者にとって不可欠な心の支えだったのですね。


💪 諦めない心 「運・鈍・根」—成功を掴む普遍的な教訓

北川先生が学生たちに繰り返し伝えているという言葉、「運・鈍・根(うん・どん・こん)」。ノーベル生理学・医学賞の坂口志文先生も口にしていたという、成功者に共通する哲学です。

「運・鈍・根」の三つの要素

この言葉は、字面通り三つの要素から成り立っています。

要素意味研究における重要性
運(うん)機会、偶然の出会い、巡り合わせ。蜂の巣状の穴の発見のように、偶然のひらめきや幸運を見逃さず、活かせる心構え。
鈍(どん)鈍感さ、粘り強さ、すぐにはへこたれない図太さ。研究がすぐに注目されなくても、「挫折という感覚はまったくなかった」と言える揺るぎない信念
根(こん)根気、根性、諦めずに続ける力。実験の失敗や困難に直面しても、「ねばり強く、諦めず、コツコツと」努力を継続する姿勢。

科学の世界を超えて—すべての若い世代へのメッセージ

「運・鈍・根」は、難しい実験を続ける科学者にだけ必要な資質ではありません。新しいことに挑戦し、自分らしく生きたいと願うすべての若い世代にとって、人生を切り開くための普遍的な教訓だと言えます。

✨ 「運・鈍・根」を日常で活かすヒント

運の活かし方鈍の活かし方根の活かし方
アンテナを張る:様々な情報や人との出会いに興味を持ち、チャンスを逃さない。マイペースで進む:他者からの評価や批判に振り回されすぎず、自分の信じる道を歩み続ける。目標を細分化:大きな目標も、小さな「できること」に分けて、毎日少しずつ続ける。
感謝を忘れない:良い機会や助けがあった時に、それを「運」として受け止め、大切にする。失敗を恐れない:失敗は成長のためのデータと考え、立ち直りの早さ(レジリエンス)を意識する。習慣化する:「コツコツと」を特別な努力ではなく、当たり前の行動として生活に取り入れる。

北川先生の受賞は、MOFという素晴らしい成果だけでなく、その根底にあった「無用の用」と「運・鈍・根」という生き方の哲学が、現代を生きる私たちにとってどれほど大切かを改めて教えてくれました。

誰もが、すぐに結果が出なくても、自分の中の「無用の用」を信じ、諦めずに根気よく(根)、少しいくらいでマイペースに、そして巡ってきたを活かせば、きっと未来を切り開いていけるはずです。


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