日本経済新聞 今日の日付(2025年10月30日 木曜日)朝刊春秋の要約と国際情勢の新たな潮流
横須賀の空母ジョージ・ワシントンの演説会場にはトランプ米大統領の持論である「力による平和」の大看板が掲げられていた。トランプ氏の隣で高市首相が満面の笑みを見せていた。首脳会談の28日は、力による平和の方向に日本が踏み出した日ではなかったろうか。
▼時代の移り変わりははやく、最近まで民主主義対権威主義や西欧的価値観への反発などが論じられていたが、いつしかそんな議論が現実からずれている感じがしはじめた。目下は中国やロシア、北朝鮮の「力による現状変更」肯定か米主導の「力による平和」かという、力の対立とみるのがしっくりくるように感じられる。
🛡️ 「力による平和」ってどういう意味? トランプ氏の平和観を理解する
コラムの主題となっているのが「力による平和」という考え方です。これはいったいどういうもので、なぜ今注目されているのでしょうか。
1. 「力による平和」の定義と歴史
「力による平和」とは、圧倒的な軍事力や経済力を持つ国が、その力を背景にして国際秩序を維持し、平和を保つという考え方です。
- 英語では「Pax(パックス)」:平和を意味するラテン語で、「Pax Romana(パックス・ロマーナ、ローマの平和)」や「Pax Britannica(パックス・ブリタニカ、イギリスの平和)」など、過去の覇権国家が作り出した平和を指す言葉として使われてきました。
- 現代の「Pax Americana(パックス・アメリカーナ)」:第二次世界大戦後、世界最強となったアメリカが主導し、日米同盟のような条約や国際機関を通じて世界に安定をもたらしてきた枠組みを指します。
2. トランプ氏が唱える「力による平和」の独自性

トランプ氏の「力による平和」は、伝統的な「Pax Americana」とは少し違ったニュアンスを持っているのが特徴です。
| 従来の「力による平和」(伝統的なPax Americana) | トランプ氏の「力による平和」 |
| 同盟国との「協力」重視 | アメリカ「第一」の「自己完結」志向 |
| 経済・軍事の**「シェア」や「相互扶助」**で同盟を維持。 | 同盟国にもっと**「コスト」(防衛費など)の「負担」**を求める。 |
| **「自由主義的な国際秩序」**の維持を理念とする。 | **「戦争はばかばかしい」というビジネスマン的な「本能」**に基づく。 |
| 国際的な枠組み(国連など)を重視。 | 一対一の首脳同士のディール(取引)を重視。 |
コラムでも触れられている通り、トランプ氏の平和への執着は「ビジネスマンの経歴から来る戦争はばからしいという考え」であり、「理念というより本能的なもの」とされています。
この考え方の特徴は、「力でねじ伏せてでも平和を保つ」という点にあり、平和のためなら、時には強権的な指導者とのディールも厭わない可能性があります。これが、コラムで指摘されている「金正恩氏など強権的な指導者が本能的に好きで、時になびき『力による現状変更を伴う平和』というのも認めそう」という懸念につながっているのです。
3. 日本にとっての「力による平和」の意味
横須賀の空母での演説は、日本がこのトランプ流「力による平和」の枠組みに本格的にコミットしていく意思表示と受け取れます。
- 「力」を増す必要性:トランプ氏が日本の役割拡大を求める中、日本も自衛隊の能力強化や防衛費の増額など、「力」を増す方向へ動くことになります。
- 日米同盟の形が変わる:これまでの「アメリカが守る」という形から、「日本も相応の責任と力をもって共同で平和を維持する」という、より対等で、より負担の大きい同盟へと変化していく可能性があります。
🤝 高市首相の「ノーベル平和賞推薦」と外交の狙い
トランプ氏との会談で満面の笑みを見せ、さらに「ノーベル平和賞推薦」という大胆な外交カードを切った高市首相の行動は、どのような意味を持つのでしょうか。
1. なぜ「ノーベル平和賞」に推薦したのか
コラムでは、この推薦を「外交の方便にとどまらず、『力による平和』へのコミットである」と分析しています。
| 目的 | 具体的な狙いと効果 |
| 首脳間の「個人的な信頼関係」の構築 | 気分屋とされるトランプ氏にとって、最高の名誉への推薦は最高の「おもてなし」であり、首相に対する好意と信頼を醸成します。 |
| 「力による平和」への賛同の明確化 | 推薦の理由として、トランプ氏の「戦争を避けてきた実績」を挙げれば、「力」を背景とした平和維持の姿勢に日本が賛同していることを明確に示せます。 |
| 外交的「ディール」の優位性確保 | 良好な関係を土台に、今後の貿易や防衛費負担などの難しい交渉(ディール)において、日本の国益が損なわれないように交渉を進める切り札になります。 |
高市首相の「首脳間の良好な関係を築いた大仕事」は、一見すると「持ち上げすぎ」にも見えますが、トランプ外交においては、「トップ同士の良好な関係」こそが最も重要な交渉材料となるため、実利を伴う外交戦略だと言えるでしょう。
2. 今後の首相に求められる「きりりとした表情」
しかし、コラムの結びにもある通り、ただ関係が良いだけでは不十分です。

今後はまたきりりとした表情に戻って気分屋の大統領と意見を戦わせ、日米同盟が国益から外れないよう、注意をお願いしたい。
これは、個人的な関係の良さ(満面の笑み)を外交の土台としつつも、日本の国益(きりりとした表情)を譲ってはならないという、「飴と鞭」の使い分けの重要性を意味しています。
- 警戒すべきトランプ氏の「本能」:前述の通り、トランプ氏は「力による現状変更」を伴う平和を認めてしまう懸念があります。例えば、台湾や尖閣諸島など、日本の安全保障に関わる問題で、中国や北朝鮮と勝手なディールをしてしまうリスクです。
- 「国益から外れないよう」:高市首相には、親密な関係をテコに、日本の安全保障上の核心的な利益を守り抜くために、時には厳しい意見も戦わせるタフな交渉力が求められます。
🌍 国際情勢の「潮目」が変わった!「力の対立」時代を生き抜くために
コラムの二段落目では、国際情勢の認識が「民主主義対権威主義」から「力の対立」に変わってきたという指摘があります。これは私たちにとって何を意味するのでしょうか。
1. 変化する世界の対立軸
かつての世界の対立は、イデオロギー(考え方)によるものでした。
| 従来の対立軸 | 新しい対立軸(コラムの指摘) |
| 民主主義(自由、人権) vs 権威主義(独裁、統制) | 米主導の「力による平和」 vs 中・露・北の「力による現状変更」 |
| **「価値観」**の優劣が議論の中心。 | **「力」の有無と「行動」**の是非が議論の中心。 |
コラムが指摘するように、最近の国際社会は、「誰が正しいか」ではなく、「誰が力を持って、現状を変えようとしているか、あるいは現状を維持しようとしているか」という、「力」そのものの対立として捉える方がしっくりくる状況になっています。
2. 「力による現状変更」の肯定とは
「力による現状変更」とは、軍事力や経済力などの「力」を使って、国際的に認められている国境やルールを一方的に変えることを指します。
具体的な例としては、ロシアによるウクライナ侵攻や、中国による南シナ海の軍事拠点化、北朝鮮による核・ミサイル開発などが挙げられます。
これらの国々は、「国際法より自分たちの力が優先だ」という考えに基づいて行動しており、これに対抗するには、国際法だけでなく、それを支える「力」が必要だというのが、今の国際社会の現実的な見方になっているのです。
3. 私たちが日米関係で考えるべきこと
この「力の対立」時代において、日本がアメリカの「力による平和」の枠組みに乗ることは、日本の安全保障上、極めて現実的で重要な選択と言えます。
- 平和はタダではない:「平和」は、誰かの「力」と「コスト」によって支えられているという現実を認識する必要があります。
- 国際情勢のプロになる必要はない:私たち一人ひとりが国際政治の専門家になる必要はありませんが、少なくとも「平和が脅かされた時、どうなるか」という想像力と、日本の防衛や外交に関心を持つことが大切です。
- 議論を続ける:「力による平和」が暴走したり、日本の国益を損なったりしないよう、私たち国民が政治家やメディアを通じて議論し、チェックし続けることが、健全な日米同盟を維持する上での一番の力になるでしょう。
📝 まとめ

今回の日本経済新聞「春秋」コラムを読み解くことで、私たちは「力による平和」という、新しい時代の日米関係のキーワードを知ることができました。
高市首相の外交は、トランプ氏という「人」を重視した巧妙な戦略であり、その基盤は築かれました。しかし、今後はその「土台」の上で、日本の国益を守り抜く「きりりとした交渉」が求められます。
国際情勢が「力の対立」へとシフトする中で、私たち一人ひとりが、日本の安全保障について「自分ごと」として考え、「平和のための力」とは何か、冷静に見極めていく必要があると感じました。
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