日本経済新聞 2025年9月5日 金曜日 朝刊春秋の要約とテレビドラマ「太陽にほえろ!」
はじめに:訃報が伝える名作ドラマのメッセージ
先日、俳優の露口茂さんの訃報が届きました。露口さんと言えば、多くの人が思い浮かべるのがテレビドラマ「太陽にほえろ!」のベテラン刑事「山さん」こと山村刑事ではないでしょうか。
日経新聞の朝刊「春秋」のコラムには、「太陽にほえろ!」の企画から長寿番組になった経緯、そして「山さん」を演じた露口さんの功績について書かれていました。
5年は続けたい」と企画したテレビドラマが、結果的に14年を超す長寿番組に育った。1972年に放映が始まった「太陽にほえろ!」だ。東京・新宿の「七曲署」に勤める刑事たちが活躍する。制作の舞台裏をプロデューサーの岡田晋吉さんが著書で明かしている。
▼犯罪ではなく刑事の生活を軸にすえる。悪意や憎しみより愛や同情を描く。基本は青春ドラマとし、若手の成長をつづる。ただし若者層が見るだけでは視聴率や話の展開が限られる。そのためホームドラマをヒントに、登場人物の年齢を広げた。大人の視聴者を引き付けたのがベテラン刑事「山さん」こと山村刑事だった。
(有料版日経新聞より引用)
このコラムを読んで、私は改めて「太陽にほえろ!」というドラマが、単なる娯楽番組を超えて、多くの人々に愛され、社会に大きな影響を与えていたことに気づかされました。この記事では、コラムで触れられていた「太陽にほえろ!」というキーワードで検索する人が知りたいであろう情報を掘り下げていきたいと思います。
なぜ「太陽にほえろ!」は多くの人を魅了したの?
「太陽にほえろ!」がなぜこれほどまでに多くの人から支持されたのか、その秘密はいくつかの要素にありました。
1. 刑事ドラマの常識を打ち破った画期的なコンセプト
それまでの刑事ドラマは、犯罪そのものや犯人逮捕までのプロセスを主軸に描くものが主流でした。しかし「太陽にほえろ!」は、その視点を大きく変えました。
- 「犯罪」よりも「刑事の生活」に焦点を当てる
- 刑事たちが抱える葛藤、苦悩、そして彼らの人間味あふれる日常を丁寧に描きました。
- これにより、視聴者は刑事たちに感情移入しやすくなり、単なるヒーローとしてではなく、私たちと同じように悩み、成長する等身大の人間として捉えることができました。
- 「悪意や憎しみ」よりも「愛や同情」を描く
- 犯罪の背景にある人間ドラマ、例えば家族愛や、社会から疎外された人々の悲しみなど、より深いテーマに切り込んでいきました。
- これにより、犯罪を単純な善悪二元論で片付けるのではなく、人間の複雑な感情や社会の矛盾を考えさせるきっかけとなりました。
- 「青春ドラマ」としての側面
- 新米刑事がベテラン刑事の指導のもと、一人前の刑事へと成長していく姿は、私たち自身の成長過程と重なります。
- 若者の悩みや夢を描くことで、若い世代の視聴者も共感できる物語になっていました。
2. 多様なキャラクターが織りなす「ホームドラマ」としての魅力
「太陽にほえろ!」は「ホームドラマ」の要素を取り入れたことで、幅広い世代から支持を得ました。
刑事たちの個性的なキャラクター
七曲署の刑事たちは、年齢も性格もバラバラでした。それぞれが異なる個性を持つことで、まるで家族のような温かい関係性を築いていました。
ニックネーム | 特徴 | 俳優 |
ゴリさん | 冷静沈着で、常に冷静な判断を下すベテラン。 | 竜雷太 |
マカロニ | 熱血漢で、感情的になりがちだが、正義感は強い。 | 萩原健一 |
ジーパン | 無口でクールだが、内に秘めた情熱を持つ。 | 松田優作 |
山さん | 洞察力と推理力に優れた、刑事たちの精神的支柱。 | 露口茂 |
(上記は一部の例です)
このようなキャラクターの多様性により、視聴者は自分の好きなキャラクターを見つけ、彼らの成長や活躍を見守ることができました。特に、若手刑事たちのあだ名(マカロニ、ジーパン、テキサス、ボンボン、スコッチなど)は社会現象にもなりました。
山村刑事(山さん)の存在感
コラムにもあるように、ベテラン刑事「山さん」の存在が、大人の視聴者を引きつける大きな要因でした。
- 深い人間性
- 若手刑事たちを見守り、時に厳しく、時に優しく指導する姿は、まるで父親のようでした。
- 彼が持つ人生経験からくる洞察力は、単なる事件解決にとどまらず、人々の心の闇にまで光を当てました。
- 露口茂さんの演技力
- セリフの少ないシーンでも、その表情やたたずまいから、山さんの内面にある複雑な感情が伝わってきました。
- 特に、容疑者と向き合う際の鋭い眼差しや、被害者や家族に寄り添う温かいまなざしは、多くの人の心に深く刻まれました。
娯楽番組を超えた社会への影響
「太陽にほえろ!」は、単なるエンターテイメントとしてだけではなく、社会に対して様々なメッセージを投げかけました。
1. 世代間の理解を深める役割
コラムにもあるように、このドラマは世代を超えて愛されました。
- 大人が若者の考え方を学ぶ
- 新米刑事たちの描写を通じて、若者の価値観や悩みに触れることができました。
- これは、世代間のギャップを埋め、お互いを理解するきっかけになったと言えるでしょう。
- 子供が大人の生き方に触れる
- 刑事たちが直面する様々な問題や、それを乗り越える姿は、子供たちにとって「大人の世界」を知る貴重な機会でした。
- 人生の厳しさや、人への優しさ、そして正義とは何かを考えるきっかけになったのです。
2. 社会の矛盾に目を向けさせる
「太陽にほえろ!」は、当時の社会が抱えていた様々な問題にも切り込んでいきました。
- 福祉行政の限界
- 犯罪の背景に潜む貧困や社会的な孤立をテーマにした回もありました。
- これは、視聴者に「犯罪は個人の問題だけではない」ということを考えさせ、社会全体で取り組むべき課題として提起しました。
- 「自殺」という重いテーマ
- 子供たちに向け、「自殺はやめよう」というメッセージを物語を通じて発信しました。
- これは、テレビドラマという大衆的なメディアが、社会の深刻な問題に正面から向き合い、視聴者に直接語りかけた稀有な例と言えます。
3. 日本のテレビドラマに与えた影響

「太陽にほえろ!」が成功したことで、その後の日本のテレビドラマに大きな影響を与えました。
- 刑事ドラマの新たなジャンルを確立
- 「刑事の人間ドラマ」を主軸にしたスタイルは、後の「あぶない刑事」や「踊る大捜査線」など、多くの人気刑事ドラマに受け継がれました。
- スター俳優を数多く輩出
- 萩原健一さんや松田優作さんなど、若手刑事役を演じた俳優たちは、その後、日本の映画やドラマ界を代表するスターへと成長しました。
- これは、若手俳優にとっての登竜門としての役割も果たしました。

「太陽にほえろ!」はなぜ性犯罪と夜の街を描かなかった?
コラムには、このドラマが「夜の街のアクションと性犯罪を禁じ手にした」と書かれています。これは非常に重要なポイントです。
1. 視聴ターゲットの広がり
- 性犯罪を描かない理由
- 性犯罪は非常にデリケートなテーマであり、家族全員で楽しめる「ホームドラマ」としての方向性と合わないという判断があったと考えられます。
- また、過激な描写を避けることで、子供から大人まで、安心して見られる番組にしようという意図があったのでしょう。
- 夜の街を描かない理由
- 夜の街は、しばしば暴力や犯罪の温床として描かれがちです。
- しかし、「太陽にほえろ!」は、そういった刺激的な描写に頼らず、刑事たちの人間性や推理力、そして人情を軸に物語を組み立てていました。
- これにより、単なる「勧善懲悪」ではない、より深い人間ドラマを描くことに成功しました。
2. 「山さん」の存在の重要性
夜や性を抜きにして、大人の視聴者も満足させるドラマにするためには、より高度な洞察力や推理力が必要でした。そこで、重要な役割を果たしたのが「山さん」でした。
- 言葉ではない演技
- 露口茂さんは、言葉ではなく、その眼差しや表情だけで犯人の心理を読み解き、事件の真相に迫る姿を見事に演じました。
- これは、過激なシーンに頼らずとも、大人の知的好奇心を刺激し、深い満足感を与えることに繋がりました。
- 知的なエンターテイメント
- アクションや暴力に頼るのではなく、登場人物たちの心理描写や緻密な推理で視聴者を引きつける、新しい形の知的エンターテイメントを確立しました。
- これは、当時の他の刑事ドラマとは一線を画すものでした。
まとめ:私たちの心に残り続ける理由
「太陽にほえろ!」は、単なる刑事ドラマではありませんでした。それは、犯罪の裏側にある人間の心の機微を描き、世代を超えて共感を呼んだ人間ドラマでした。
このドラマが私たちに残してくれたものは何でしょうか?
- 多様な人々が共存する社会
- 七曲署の刑事たちのように、異なる個性を持つ人々が互いを尊重し、助け合うことの大切さを教えてくれました。
- 人間的な成長の物語
- 新米刑事がベテラン刑事に、そして一人の人間として成長していく姿は、私たち自身の人生と重なり、勇気を与えてくれました。
- テレビドラマの可能性
- 単なる娯楽に留まらず、社会の矛盾を投げかけ、人々の心を動かすことができる、メディアの可能性を示してくれました。
露口茂さんの訃報は寂しいものですが、彼が演じた「山さん」というキャラクター、そして「太陽にほえろ!」という名作は、これからも私たちの心の中で生き続けていくでしょう。そして、いつかまた、このドラマのように、世代を超えて愛され、社会に問いかけるような素晴らしい作品が生まれることを願っています。