日本経済新聞 2025年8月19日(火)の要約とチームビルディング
はじめに:あの頃の「合宿」と、今の私たち
夏になると10代に経験したラグビーの合宿を思い出す。つらい、臭い、暑い、三拍子そろった劣悪な環境の中、数日間同じ目的に向かって寝食を共にするのは、今にして思えば有益だった。ラグビーでもサッカーでも、代表は大事な試合の前は合宿をやっている。企業でも中期計画策定のためといった目的で週末に幹部合宿を行うことがある。嫌がる幹部も多いが、僕は賛成派だ。
コロナ禍は人間関係を希薄にした。緊急事態宣言の頃は採用面接もウェブで行われたので、出社したら「君はこんなに大きい人だったのか」と言われた人もいる。その後もしばらく在宅勤務が続き、最近は上司が部下を飲みに誘うのも、断られたらどうしようと躊躇(ちゅうちょ)するそうだ。不祥事の一背景として社員同士のコミュニケーション不足も指摘された。合宿で缶詰めになり徹底的に議論を重ねると段々(だんだん)お互い遠慮がなくなり言いたいことを言い合い、集団ヒステリーのようになって大胆なアイデアが出たり皆の覚悟が固まったりすることもある。夕方飲んで駄弁(だべ)るうちに一仕事片付いた経験もある。オフサイトミーティングの効用だ。
「合宿」と聞くと、学生時代の少し古臭くて、なんだか精神論がかったイメージがありませんか? 😊
正直なところ、「会社の合宿なんて、面倒くさいな…」と感じる方も少なくないかもしれませんね。
でも、この記事を読んで、その考えが少し変わるかもしれません。
コロナ禍を経て、私たちの働き方は大きく変わりました。リモートワークが当たり前になり、便利になった一方で、こんな悩みを感じていませんか?
- 「チャットの文字だけじゃ、相手の気持ちが分かりにくいな…」
- 「新しいプロジェクトのメンバー、実はまだ顔と名前が一致しない…」
- 「ちょっとした雑談から生まれるアイデアって、最近減ったかも?」
そう、私たちは知らず知らずのうちに、「コミュニケーション不足」という課題を抱えているのかもしれません。日経新聞のコラムが指摘するように、時にはそれが大きな問題につながることさえあります。
そこで今、改めて注目されているのが「合宿」や「オフサイトミーティング」なんです。
この記事では、ただの「面倒なイベント」ではない、チームを劇的に変える可能性を秘めたオフサイトミーティングの魅力と、その効果を最大限に引き出すための具体的な方法を、分かりやすく解説していきます。
「私たちのチーム、もっと良くならないかな?」
そう感じているあなたに、きっと役立つヒントが見つかるはずです。
なぜ今、あえて「集まる」ことが大切なの?

リモートワークは、通勤時間もなくなり、自分のペースで仕事ができる素晴らしい働き方です。でも、その便利さと引き換えに、私たちは大切な何かを失ってしまったのかもしれません。
失われた「雑談」と「一体感」
オフィスにいた頃を思い出してみてください。
- 給湯室で交わした、何気ない会話
- ランチをしながらの、ちょっとした愚痴や相談
- 隣の席から聞こえてくる、楽しそうな笑い声
これらは一見、仕事とは関係ない「ムダ」な時間に見えるかもしれません。でも、実はこの「ムダ」こそが、チームの潤滑油になっていたのです。
オフィスワークの「当たり前」 | リモートワークで失われがちなもの |
偶発的なコミュニケーション | 相手の状況が分からず、声をかけにくい |
相手の表情や声色の情報 | テキストだけでは感情が伝わりにくい |
チームとしての一体感 | 個人作業が中心になり、孤独を感じやすい |
ちょっとした相談や質問 | わざわざ会議を設定するほどでもない…と躊躇 |
リモートワークでは、基本的に「目的のある会話」しか生まれません。効率的ではありますが、それだけでは、新聞記事が指摘するような「人間関係の希薄化」が進んでしまうのも無理はないですよね。
「心理的安全性」がチームを強くする
最近よく聞く「心理的安全性」という言葉をご存知ですか?
これは、Googleの研究で「成功するチームの最も重要な要素」だと結論付けられた考え方です。
簡単に言うと、「このチームの中なら、どんな意見を言っても、失敗しても、非難されたり、バカにされたりしない」と、メンバー全員が安心して感じられる状態のこと。
心理的安全性が高いチームでは、
- 「こんなこと言ったら変に思われるかな?」という不安がなくなる
- 活発な意見交換から、革新的なアイデアが生まれやすくなる
- メンバー同士の信頼関係が深まり、助け合いの文化が育つ
といった、素晴らしい効果が生まれます。
そして、この「心理的安全性」を育む上で、オンラインだけのコミュニケーションには限界があるのです。相手のちょっとした表情の変化や、場の空気を感じ取りながら、本音で語り合う時間。それこそが、オフサイトミーティングが提供してくれる最大の価値の一つと言えるでしょう。
ただの旅行じゃない!オフサイトミーティングの驚くべき効果

「オフサイトミーティングって、要は場所を変えて会議するだけでしょ?」
そう思っているなら、もったいない!
いつもの会議室を飛び出すことには、私たちが想像する以上の「魔法の効果」が隠されているんです。
効果1:非日常空間が「脳」を解放する 💡
人は環境に大きく影響される生き物です。いつものデスク、いつもの会議室では、どうしても思考のパターンが固定化されがち。
緑豊かな自然の中、おしゃれなカフェ、あるいは歴史を感じる古民家など、非日常的な空間に身を置くことで、脳は新しい刺激を受けます。
- 固定観念からの脱却: 「いつもこうだから」という思い込みが外れ、自由な発想が生まれやすくなります。
- リラックス効果: 心地よい環境は心身をリラックスさせ、視野を広げてくれます。
- 五感への刺激: 見るもの、聞こえるもの、感じるものすべてが、新たなアイデアの種になります。
日経新聞の記事にあった「集団ヒステリーのようになって大胆なアイデアが出たりする」というのも、この非日常空間が生み出す解放感と無関係ではないでしょう。
効果2:「同じ釜の飯を食う」効果で、心の距離が縮まる 🤝
食事を共にすることは、古くから人間関係を築く上で非常に重要な行為とされてきました。
一緒に料理を作ったり、美味しいものを囲んで語り合ったりする時間。それは、ただお腹を満たすだけではありません。
- 素の自分を見せられる: 仕事の鎧を脱ぎ、プライベートな一面を共有することで、一気に親近感が湧きます。
- 共通の体験が絆を生む: 「あの時、みんなで食べたあのご飯、美味しかったね」という記憶が、チームの強い絆になります。
- 本音を引き出す時間: アルコールが少し入ることで、普段は言えない本音や感謝の気持ちを伝えやすくなることもありますよね。
記事の「夕方飲んで駄弁るうちに一仕事片付いた経験もある」という一文は、まさにこの効果を物語っています。公式な会議では出てこないような本音の対話が、複雑な問題をいとも簡単に解決してくれることがあるのです。
効果3:偶発的な出会いが「化学反応」を起こす ✨
オフサイトミーティングのプログラムは、びっしりと会議で埋める必要はありません。むしろ、大切なのは「余白」の時間です。
- 移動中のバスの中での会話
- 休憩時間のコーヒーブレイク
- 散歩中にふと交わした言葉
こうした計画されていない時間こそ、部署や役職を超えた偶発的なコミュニケーションが生まれるチャンスです。普段あまり話さない人と会話することで、
- 「〇〇さんって、意外と面白い人だったんだ!」という新たな発見がある
- 自分の仕事が、会社のどの部分と繋がっているのかが見えてくる
- 全く違う視点からの意見が、新しいアイデアのヒントになる
といった「化学反応」が起こります。これこそが、チーム全体の創造性を高める鍵となるのです。
「一流は盗む」の真意とは?創造性は「組み合わせ」から生まれる
日経新聞のコラムは、創造性の本質についても触れています。
コロンビア大学で教壇に立つウィリアム・ダガンの著書「戦略は直観に従う」によれば、偉人は盗み上手で、T.S.エリオットは「二流の詩人は模倣する、一流の詩人は盗む」と語り、スティーブ・ジョブズは「創造性とはまさに物事を結びつけることである」と語ったという。人と議論する中で何を見出すかが創造性ということだ。机にへばりついても名案が浮かぶわけではない。
これは、とても重要なメッセージだと思いませんか?
「模倣」と「盗む」は、どう違う?
「盗む」と聞くと、少しネガティブなイメージがあるかもしれません。でも、ここで言う「盗む」は、単なる丸パクリ、つまり「模倣」とは全く違います。
模倣(二流) | 盗む(一流) | |
目的 | オリジナルをそっくりそのまま真似ること | 素晴らしいアイデアの本質を理解し、自分のものにすること |
プロセス | 表面的な形だけをコピーする | なぜそれが素晴らしいのかを深く分析し、分解する |
結果 | オリジナルの劣化版しか生まれない | 既存の要素と組み合わせて、全く新しい価値を生み出す |
スティーブ・ジョブズが言うように、創造性とは「ゼロから何かを生み出す魔法」ではなく、「すでにある点(知識や経験)と点を結びつけて、新しい線を描く力」なのです。
新しい「点」をどうやって見つける?
では、新しい線を引くために必要な「点」は、どこにあるのでしょうか?
その答えは、自分の中だけにはありません。コラムの最後の言葉が、そのヒントをくれています。
おじさんたち、見栄を捨てよ、若者と町へ出よう。
これは、世代を超えて、あるいは全く違う分野の人たちと積極的に交流しよう、というメッセージです。
- 若者との対話: 私たちが当たり前だと思っている常識を、新鮮な視点で覆してくれるかもしれません。
- 異業種の人との交流: 自分の業界の「当たり前」が、他の業界では「非常識」であることに気づかされます。
- 多様な価値観に触れる: 自分とは全く違う人生を歩んできた人の話は、新しい「点」の宝庫です。
机に一人で向かっていても、自分の中にある「点」しか結びつけることはできません。しかし、多様な人との対話を通して、私たちは自分の中にはなかった無数の「点」を手に入れることができるのです。
オフサイトミーティングは、まさにこの「新しい点を見つけるための絶好の機会」と言えるでしょう。
実践編:明日からできる!チームを変えるアクションプラン
「オフサイトミーティングの良さは分かったけど、具体的にどうすればいいの?」
そんな声が聞こえてきそうですね。
ここでは、大規模な合宿だけでなく、明日からでも始められる小さな一歩から、本格的な企画のコツまで、具体的なアクションプランをご紹介します。

STEP 1:まずは小さな「オフサイト」から始めてみよう
いきなり泊まりがけの合宿を企画するのはハードルが高いかもしれません。まずは、ランチや半日程度の短い時間から始めてみませんか?
おすすめ「プチ・オフサイト」アイデア
アイデア名 | 目的 | やり方 |
ウォーキング・ミーティング | 気分転換、自由な発想 | 公園や川沿いなどを歩きながら、1対1や少人数で話す。煮詰まった時のブレストに最適。 |
カフェ・ワークショップ | 創造的な雰囲気、リラックス | 普段行かないようなおしゃれなカフェを貸し切り、テーマを決めてアイデア出しをする。 |
「越境」ランチ | 新たな視点の獲得 | 普段関わりのない部署の人と、少し豪華なランチに行く。お互いの仕事の話を聞くだけでも新鮮。 |
ボランティア活動 | 社会貢献、チームビルディング | 地域の清掃活動やイベントの手伝いなどにチームで参加する。共通の目標に向かう体験が一体感を生む。 |
大切なのは、「いつもと違う場所」で「いつもと違う話」をすること。まずはこの小さな成功体験を積み重ねていくことが、大きな変化への第一歩になります。
STEP 2:効果を最大化する!オフサイトミーティング企画のコツ
本格的なオフサイトミーティングを企画するなら、無計画ではただの「お疲れ旅行」になりかねません。成功させるためには、事前の準備が何よりも重要です。
企画のチェックリスト
【1】目的を明確にする(WHY)
何のためにオフサイトミーティングを行うのか、チーム全員で共有しましょう。
- (例)
- 来期の中期経営計画の骨子を固める
- リモートでバラバラになったチームの一体感を取り戻す
- 新製品の斬新なアイデアを100個出す
【2】ゴールを設定する(GOAL)
終了時に「どうなっていたいか」を具体的にイメージします。
- (例)
- 計画の骨子について、全員が納得し、自分の言葉で語れる状態になっている
- メンバーがお互いのプライベートな一面を知り、気軽に雑談できる関係になっている
- 100個のアイデアの中から、実現可能性の高いものを3つに絞り込めている
【3】参加者と役割分担を決める(WHO)
目的達成に最適なメンバーを選びます。また、当日の進行役(ファシリテーター)や書記、タイムキーパーなどの役割を事前に決めておくとスムーズです。
【4】場所と時間を選ぶ(WHERE/WHEN)
目的に合った場所を選びましょう。
- 集中して議論したい: 静かな研修施設、温泉旅館
- アイデアを広げたい: 自然豊かなコテージ、デザイン性の高いレンタルスペース
- スケジュール: 参加者の負担にならないよう、余裕を持ったスケジュールを組みます。移動時間も考慮に入れましょう。
【5】アジェンダ(議題)を作成する(WHAT)
「会議」と「交流」のバランスが重要です。
- 議論の時間は詰め込みすぎない: 発散と収束の時間を意識的に設ける。
- 「余白」の時間を大切に: 自由時間や食事、アクティビティの時間もプログラムに組み込む。
- アイスブレイクを忘れずに: 最初に簡単な自己紹介やゲームを取り入れ、場の空気を和ませる。
当日のファシリテーションのヒント
当日の進行役は、議論を活性化させる重要な役割を担います。
- 全員に発言機会を: 特定の人ばかりが話さないよう、話を振ってあげる。
- 意見を否定しない: どんな意見もまずは「ありがとうございます」と受け止める。「心理的安全性」を確保する。
- 時間管理を徹底する: 脱線しすぎたら、さりげなく本題に引き戻す。
- 結論を急がない: 時には、明確な結論が出ないまま終わる議論があっても良い。大切なのは、全員で考え抜いたプロセスそのもの。
STEP 3:やりっぱなしで終わらせない!未来につなげるために

オフサイトミーティングで最ももったいないのは、「楽しかったね」で終わってしまうこと。熱が冷めないうちに、次へのアクションにつなげましょう。
- 議事録(決定事項)の共有:誰が、いつまでに、何をするのか(TODO)を明確にして、ミーティング後すぐに全員に共有します。
- 振り返りの時間(KPT法など):ミーティングの最後に、「Keep(良かったこと)」「Problem(課題)」「Try(次に試すこと)」を全員で出し合い、次回の改善につなげます。
- 日常業務への落とし込み:オフサイトで生まれたアイデアや深まった関係性を、日常の業務でどう活かしていくかを考える場を設けます。例えば、週に一度の雑談タイムを設ける、新しいコミュニケーションツールを試すなど。
オフサイトミーティングは、特別な「イベント」ではなく、チームをより良くするための「プロセス」の一部。このサイクルを回していくことで、チームは着実に成長していくはずです。
まとめ:さあ、チームで「冒険」に出かけよう

日経新聞のコラムをきっかけに、オフサイトミーティングの可能性について考えてきました。
コロナ禍を経て、私たちは効率性と便利さを手に入れましたが、同時に、人と人との繋がりから生まれる温かさや、偶発的な出会いがもたらす創造性の価値を再認識することになりました。
合宿やオフサイトミーティングは、決して時代遅れの精神論ではありません。
それは、希薄になった人間関係を再構築し、チームに一体感という名のエンジンを搭載し、そして、予測不可能な未来を切り拓くための新しいアイデアを生み出すための、極めて戦略的な「投資」なのです。
「机にへばりついても名案が浮かぶわけではない。」
コラムの言葉が、心に響きます。
この記事を読んで、「ちょっとやってみようかな」と思ってくださったなら、まずは隣の席の同僚や、チームのメンバーに、「今度、場所を変えてミーティングしてみませんか?」と声をかけることから始めてみてください。
その小さな一歩が、あなたのチームを、そして会社全体を、もっと創造的で、もっと人間らしい場所に変えていく、大きな冒険の始まりになるかもしれませんよ。 😊