2025年11月13日(木) 日本経済新聞 朝刊春秋の要約と社会の光と影
日本経済新聞のコラム「春秋」は、私たちが見過ごしがちな社会の片隅にある現実を鋭く映し出しています。
子どもの幸せを祈る記念日は国によって日付が違う。日本では5月5日だが、4月や6月の国もある。国連が定めたのは1週間後の11月20日。1954年に制定された。89年の同日には、すべての子どもに人権を保障する「子どもの権利条約」が総会で採択されている。
▼その特別な日を前に、名前も知らないある女の子のことを考えている。母親とともにタイから来日し、都内のマッサージ店に置き去りにされた。店で寝泊まりしながら客への性的サービスを強いられた。まだ12歳である。「タイに帰りたい。学校に通いたい」。捕まる覚悟で1人で出入国在留管理局に出向き、保護された。
このコラムは、子どもの権利を守る記念日という「光」の話題から始まりながら、一人の外国人少女が日本で受けた性的搾取という「影」の現実を対比させています。国際的な子どもの権利の意識と、目の前で起こっている悲劇的な事件のギャップに、胸が締め付けられます。
特に、12歳の少女が「捕まる覚悟で」入管局へ向かったという行動は、どれほどの恐怖と絶望、そして強い「生きたい」「学校に通いたい」という希望が入り混じっていたのかを想像させます。私たち大人が、この事実から目をそらさず、彼女たちの希望を守るために何ができるのかを深く考えるきっかけを与えてくれる内容です。
📅世界と日本の子どもの日:幸せを願う記念日
世界には、子どもたちの健やかな成長と幸せを願う特別な日がいくつもあります。しかし、その日付は国によって様々です。
日本と世界の「子どもの日」
| 国/機関 | 記念日の名称 | 日付 | 特徴と行事 |
| 日本 | こどもの日 | 5月5日 | 端午の節句として男の子の成長を祝う文化があり、鯉のぼりや兜を飾る風習があります。 |
| タイ | 子どもの日 | 1月の第2土曜日 | コラムにも登場したタイの特別な日。多くの場所で無料のイベントや乗り物体験が提供され、大人から子どもへプレゼントが贈られます。 |
| 国連 | 世界こどもの日 | 11月20日 | 1954年に制定され、1989年に「子どもの権利条約」が採択された記念すべき日です。 |
| 世界(多数の国) | 国際子どもの日 | 6月1日 | ロシアや中国など多くの国がこの日を祝います。 |
このように、日付は違っても、世界中の人々が子どもたちの未来を心から大切に思っていることに変わりはありません。
🕊️すべての土台「子どもの権利条約」とは
国連が定めた11月20日に採択されたのが、「子どもの権利条約」です。これは、18歳未満のすべての子どもに、人権を保障しようという国際的な約束事です。
少し専門的に聞こえるかもしれませんが、簡単に言えば、私たち大人が持っている人権と同じように、子どもたちも一人の人間として大切にされ、守られるべきだということを明確にしたものです。この条約が保障する権利は、大きく分けて4つの柱があります。
| 4つの柱 | 権利の内容(分かりやすい言葉で) |
| 1. 生きる権利 | 命が守られ、健康に育つための十分な食事や医療を受けられる権利。 |
| 2. 守られる権利 | 虐待や放置、性的搾取、戦争など、あらゆる危険から守られる権利。 |
| 3. 育つ権利 | 教育を受け、休んだり遊んだりする時間があり、自分らしく能力を伸ばせる権利。 |
| 4. 参加する権利 | 自分の考えを自由に表現し、自分に関係のあることを決める際に意見を言うことができる権利。 |
コラムの少女は、この4つの権利のうち、「生きる権利」「守られる権利」「育つ権利」のすべてを深刻に侵害されていました。彼女が「学校に通いたい」と願ったのは、「育つ権利」を取り戻したいという、本能的な叫びだったと言えるでしょう。

💔12歳の少女が見た日本の「影」:人身売買と性的搾取の現実
コラムに書かれた少女の経験は、私たち日本人にとって目を覆いたくなるような、衝撃的な出来事です。彼女が異国の地で直面した問題の背景にある、構造的な問題について考えてみましょう。
少女を追い詰めた「人身売買」の闇
彼女がタイから日本へ連れてこられ、マッサージ店に置き去りにされた経緯は、「人身売買」という犯罪の典型的な手口です。
人身売買とは、人を商品のように扱い、搾取することを目的とした取引です。特に国際的な人身売買では、貧困や母国の不安定な状況につけ込み、「日本でいい仕事がある」と嘘の約束で誘い出すケースが多くあります。
少女は、母親とともに来日したにもかかわらず、その母親が台湾で拘束され、残された少女は悪質なブローカーや店の経営者によって性的搾取の被害者となりました。わずか12歳の子どもに、大人相手の性的サービスを強いる行為は、最も重い人権侵害であり、決して許されるものではありません。
なぜ被害者は声を上げられないのか
少女は勇気を出して入管局へ向かい、保護されましたが、声を上げられない子どもたちはたくさんいます。その背景には、以下のような複雑な理由があります。
- 言葉の壁と孤立: 日本語がほとんど話せず、地理的にも不慣れなため、誰に助けを求めていいかわからない。
- 「助けを求めたら捕まる」という恐怖: 不法滞在や店の経営者からの脅しによって、「逃げたら警察に捕まる」「家族にも危害が及ぶ」と信じ込まされている。
- トラウマと羞恥心: 自身が受けた被害のショックや、それを話すことへの強い羞恥心から、口を閉ざしてしまう。
- 加害者への依存: 厳しい監視下で、加害者である経営者などが唯一の生活の供給源(食事、寝場所)となっているため、逃げたくても逃げられない状況。
少女が「捕まる覚悟で」入管局へ行ったのは、この「逃げたらどうなるかわからない」という絶望的な孤立状態を打ち破る、命がけの行動だったと言えます。

📢私たちにできること:社会の光を届けるために
私たち一人ひとりが、この少女のような悲劇を二度と起こさないために、そして既に助けを求めている子どもたちを守るためにできることがあります。
困難な子どもたちを支える公的機関と支援団体
もし、身近に言葉や文化の壁で困っている外国人児童や、明らかに不適切な環境で生活している子どもを見かけたら、すぐに以下の窓口に連絡してください。
| 支援窓口 | 連絡先/役割 | 支援内容 |
| 児童相談所(全国共通) | 189(いちはやく) | 虐待、育児放棄、その他子どもの福祉に関する相談・一時保護。国籍を問わず対応。 |
| 警察(人身安全対策課) | 110番 または最寄りの警察署 | 人身売買、性的搾取、犯罪被害の緊急通報、捜査。 |
| 特定非営利活動法人(NPO) | 各団体の連絡先 | 外国人児童への生活支援、日本語学習支援、通訳の提供、カウンセリング。 |
| 出入国在留管理庁(入管局) | 各地方の窓口 | 人身取引の被害者として自己申告した場合の保護・支援措置。 |
「私には関係ない」と思わないでください。 私たちが勇気を出して一本の電話をかけることが、孤立した子どもにとって唯一の救いの手になる可能性があります。

子どもたちのSOSを見逃さないために
子どもたちが発するSOSは、必ずしも言葉として発せられるとは限りません。特に言葉の壁がある外国人児童の場合、そのサインはより見えにくいものです。
| 見逃してはいけないサイン | 具体的な行動や状況 | 私たちの心構え |
| 外見上のサイン | 不潔な服装、季節に合わない薄着、極端な痩せ、不自然な怪我(火傷や打撲の繰り返し)。 | 「家で何かあったのかも」と疑念を持つこと。 |
| 生活のサイン | 遅刻や欠席が多い、学校で常に空腹を訴える、深夜まで一人で外をさまよっている。 | 地域や学校で不自然な生活リズムの子がいないか、気にかける。 |
| 精神的なサイン | 無関心、極端な人見知り、常に怯えている様子、年齢に見合わない性的知識がある。 | 信頼できる大人として、優しく話を聞く姿勢を見せる。 |
支援の輪を広げる私たちのお金の使い方
直接的に子どもを助けることは難しくても、活動しているNPOや支援団体に寄付という形で協力することができます。
- 生活物資の支援: 食料、衣類、学用品など。
- 活動費の寄付: 弁護士費用、通訳費用、カウンセリング費用など。
私たちが日々の生活で得たお金の一部を、子どもたちの「生きる権利」「育つ権利」を守る活動に使うことは、立派な社会貢献です。

🌎希望の光を目指して:国際社会から見た子どもの権利
コラムでは、タイの「子どもの日」が1月の第2土曜日であることに触れ、少女が一日も早く故郷の家族と笑顔でその日を迎えられることを祈っています。この「帰りたい」という願いは、彼女の故郷への強い愛着と、平和な日常への切実な希望を表しています。
帰国後の生活保障も私たち大人の責任
幸い、この少女は日本で保護されましたが、それで終わりではありません。彼女が故郷であるタイに帰った後も、安心して暮らせる環境を整えることが重要です。
国際的な人身売買の被害者の場合、帰国後に再び貧困や人身売買のブローカーの手に落ちてしまうリスクがあります。そのため、関係機関は以下の支援を連携して行う必要があります。
- 精神的なケア(カウンセリング)
- 家族の再統合支援
- 学校への復学サポート
- 生活資金や住居の確保
日本で傷つけられた彼女の人生を、日本にいる私たちが最後まで見届けるという意識を持つことが大切です。

🇯🇵日本の「子どもの権利」のこれから
日本は子どもの権利条約を批准していますが、国内での権利保障の取り組みには、まだ課題が残されています。
2024年に成立した「こども大綱」や「こども基本法」は、子どもの権利を尊重し、子どもの最善の利益を優先することを明確に示しました。これは大きな一歩です。
しかし、法律を作るだけでは不十分です。私たち一人ひとりが、以下のような行動を心がける必要があります。
- 子どもの声を聴く: 学校や地域社会で、大人の都合ではなく、子どもたちの意見や感情を尊重すること。
- 子どもの居場所を守る: 虐待やいじめ、搾取から逃れられる安全な場所(学校、地域センター、NPO)の存在を広げること。
- 多様性を認める: 外国籍の子ども、貧困家庭の子ども、障がいを持つ子どもなど、あらゆる背景を持つ子どもを社会の一員として温かく迎え入れること。

🎀結びに
コラムの最後に、筆者は少女の故郷であるタイの「子どもの日」に、彼女が笑顔でその日を迎えられるよう心から祈っています。その祈りは、私たち全員の願いであるはずです。
私たちは、この悲しいニュースを単なる「事件」として消費するのではなく、「私たち大人が、一人の子どもの人生を深く傷つけてしまった」という事実として受け止めなければなりません。
彼女が不安を抱えながら歩いた入管局までの道は、私たちが社会の闇から光へと導くべき「希望への道」でもあります。世界中のすべての子どもたちが、その国や文化、経済状況に関わらず、心からの笑顔で毎日を過ごせるよう、今日から私たち一人ひとりができることを、一緒に始めていきましょう。









