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ニーバーの祈りに学ぶ、変化の時代を賢く生き抜くヒント

日本経済新聞 2025年8月20日(水曜日)朝刊春秋の要約と現代を生きるための羅針盤

ときに暴走する科学技術と社会道徳をどう調和させるかは近年ますます議論される課題だが、「平安の祈り」で知られる神学者のニーバーは1930年代の早くからこうした考えに冷ややかだった。社会の意思は理性より衝動で成り立っており、進歩は困難と喝破した。

▼アラスカの空の最新鋭米軍機がプーチン大統領を出迎える映像にニーバーの洞察を思った。「市民を殺すのをやめるのか」という記者の問いに返したふざけた表情は、人間の進歩のなさを垣間見るようだった。ロシアも持つ現代の強大な兵器テクノロジーにはそれを使う人間の心性をおとしめる作用までもありそうである。

有料版日経新聞より引用


毎日ニュースを眺めていると、心がざわつくような出来事ばかりが目に飛び込んできますよね。止まらない技術の進歩、世界のどこかで続く争い、そして私たちの暮らしに忍び寄る不安の影。

「この先、世の中はどうなっちゃうんだろう…」

「私にできることなんて、何もないのかもしれない…」

そんな風に感じて、ちょっぴりうつむいてしまう日もあるのではないでしょうか。

今日の日本経済新聞のコラム「春秋」は、そんな私たちの心にそっと寄り添い、そして背中を押してくれるような、深いメッセージを投げかけていました。キーワードは、神学者ラインホルド・ニーバーの「平安の祈り」。

この記事では、コラムの内容を道しるべにしながら、ニーバーの言葉が持つ意味を紐解き、先の見えない現代社会を私たちが賢く、そして心穏やかに生きていくためのヒントを探っていきたいと思います。少し長くなりますが、どうぞ最後までお付き合いくださいね。


目次

ニーバーってどんな人?「平安の祈り」に込められた深い意味

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ラインホルド・ニーバーという人物について

まずは、今回のコラムの中心人物であるラインホルド・ニーバーについて、少しだけご紹介させてください。

「神学者」と聞くと、少し難しいイメージがあるかもしれませんね。でも、彼はただ教会で祈りを捧げるだけの人ではありませんでした。20世紀のアメリカを代表する思想家の一人で、政治や社会問題にも積極的に発言した、とてもパワフルな人物だったんです。

彼が生きた時代は、第一次世界大戦、世界恐慌、そして第二次世界大戦と、まさに激動の時代。そんな中で彼は、人間や社会が持つ「光と影」の両面を、とても冷静な目で見つめていました。

  • 人間の素晴らしい可能性(愛、理性、自己犠牲)
  • 人間のどうしようもない弱さ(自己中心性、傲慢、権力欲)

彼は、「人間はこんなにも素晴らしいのに、どうして社会や国が集団になると、こんなにも愚かで残酷なことをしてしまうんだろう?」という問いと、生涯向き合い続けた人でした。コラムが指摘する「社会の意思は理性より衝動で成り立っており、進歩は困難」という言葉は、まさに彼の思想の核心部分を表しています。

心に響く「平安の祈り」の全文とその解説

そんなニーバーの思想が、ぎゅっと凝縮されているのが、世界中で知られている「平安の祈り」です。あなたも一度は耳にしたことがあるかもしれません。

神よ、

変えることのできないものを静穏に受け入れる力を与えてください。

変えるべきものを変える勇気を、

そして、変えられないものと変えるべきものを区別する賢さを与えてください。

この短い祈りには、私たちが悩みや困難に直面したときに、どう心を保ち、どう行動すればよいのか、そのエッセンスが詰まっています。一つずつ、見ていきましょう。

変えることのできないものを受け入れる「心の平静」

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これは、自分ではどうにもコントロールできない現実を、静かな心で受け入れる力のこと。

例えば、

  • 過去に起こってしまった出来事
  • 他人の気持ちや性格
  • 天災や景気の変動
  • 自分が年を重ねていくこと

こうしたことに対して、「なんでこうなっちゃうの!」とイライラしたり、「あの時ああしていれば…」とくよくよしたりしても、状況は変わりませんよね。むしろ、心が疲れてしまうだけ。

ニーバーは、こうした変えられない現実を、まずは「そういうものだ」と静かに受け入れることが、心の平安への第一歩だと教えてくれています。これは決して「諦め」とは違います。無駄なエネルギーを使わず、心を穏やかに保つための、積極的な知恵なんです。

変えるべきものを変える「勇気」

一方で、こちらは自分の意志や行動で変えていける領域のこと。

例えば、

  • 自分自身の考え方や行動、習慣
  • 今日の自分の機嫌
  • 目標達成のための努力
  • 周りの人への接し方
  • より良い社会にするための小さな一歩

こうしたことに対して、「どうせ無理だ」と最初から諦めてしまっては、何も始まりません。たとえ少しずつでも、現状をより良くするために一歩を踏み出す「勇気」が大切だと、ニーバーは語りかけます。コラムで触れられているウクライナのゼレンスキー大統領が、必死の姿で示しているのが、まさにこの「勇気」なのかもしれません。

最も大切な「両者を区別する賢さ」

そして、ニーバーが最も重要だと考えていたのが、この「賢さ(知恵)」です。

今、自分が直面している問題は、

  • 静かに受け入れるべき「変えられないもの」なのか?
  • 勇気をもって立ち向かうべき「変えるべきもの」なのか?

これを見極める力こそが、私たちを悩みから解放し、本当にやるべきことに集中させてくれる羅針盤となります。

私たちはつい、変えられない他人の言動に心をすり減らしたり、逆に、変えられるはずの自分の習慣から目をそむけたりしがちです。この「見極め」が上手にできるようになると、毎日の景色が少し変わって見えるかもしれませんね。


コラムがえぐる現代社会の問題点

ニーバーの祈りを心に置いた上で、もう一度コラムの内容に目を向けてみましょう。そこには、現代社会が抱える根深い問題が、鋭く描き出されています。

「科学技術の暴走」と私たちの心

コラムは「ときに暴走する科学技術と社会道徳をどう調和させるか」という問いから始まります。

スマートフォン、SNS、AI…。私たちの暮らしは、驚くべきスピードで進化するテクノロジーによって、とても便利になりました。でも、その一方で、こんな風に感じることはありませんか?

  • SNSで他人のキラキラした投稿を見て、なんだか落ち込んでしまう。
  • 次から次へと流れてくる情報に振り回されて、心が休まらない。
  • 便利なはずのツールに、逆に時間を支配されているような気がする。

コラムが触れている「強大な兵器テクノロジー」は、その最たる例です。人を効率的に傷つけるために開発された技術は、それを使う人間の心までをも蝕んでしまうのではないか、と警鐘を鳴らしています。

ニーバーの「社会の意思は理性より衝動で成り立っている」という言葉が、ここで重く響きます。インターネットの世界では特に、理性的な対話よりも、感情的な「いいね!」や批判が瞬く間に広がっていきますよね。それは、テクノロジーが、私たちの「衝動」を刺激するようにデザインされているからかもしれません。

技術の進歩そのものが悪いわけではありません。大切なのは、私たちがその技術に振り回されるのではなく、賢く使いこなすための「社会道徳」や「倫理観」を、しっかりと育んでいくことなのでしょう。

国際社会の現実と「リアリスト」という姿勢

コラムの後半は、ウクライナ情勢に触れながら、国際政治の厳しい現実を描き出しています。

「市民を殺すのをやめるのか」という問いに、ふざけた表情で返すプーチン大統領の姿。それは、残念ながら「人間の理性や良心は、必ずしも常に勝つわけではない」という現実を見せつけます。

ここで出てくるのが「リアリスト(現実主義者)」という言葉です。

理想主義現実主義(リアリズム)
人間観人間は基本的に善であり、理性的な対話で分かり合えるはずだ。人間は自己の利益を追求する存在であり、時に利己的で衝動的になる。
国際社会国際法や国際機関を通じて、平和で協力的な世界を築けるはずだ。国際社会は、国同士が自国の利益をかけて争う厳しい場所(無政府状態)だ。
平和のためにはみんなでルールを守り、対話を重ねることが大切。自国を守るための力(軍事力や経済力)を持つことが、結果的に平和につながる。

少し難しいかもしれませんが、「きれいごとだけでは世の中は動かない」というのが、リアリズムの基本的な考え方です。ニーバーも、このリアリズムの立場に立つ思想家でした。彼は、人間の善性を信じつつも、その限界を深く理解していたのです。

コラムは、ウクライナのゼレンスキー大統領の姿に、この「前を向くリアリストの姿勢」を見出しています。

  • 変えられないものを受け入れる:大国ロシアが隣にあるという地政学的な現実。核兵器で脅しをかける国の非情さ。
  • 変えるべきものを変える勇気:国民の士気を高め、国を守り抜くという強い意志。国際社会に粘り強く支援を訴え続ける行動力。

この二つを冷静に見極め、絶望的な状況の中でも最善を尽くそうとする姿は、まさにニーバーの祈りを体現しているかのようです。それは、私たち個人が日々の困難に立ち向かう上でも、大きなヒントを与えてくれます。


私たちの毎日に活かす「平安の祈り」のヒント

さて、ここからは視点をぐっと私たちの日常に戻して、この「ニーバーの祈り」を、日々の暮らしの中でどのように活かしていけるのか、一緒に考えてみたいと思います。

なんだか心がモヤモヤする、不安で眠れない…。そんな時、この祈りの三つのステップは、きっとあなたの心を整理する手助けをしてくれるはずです。

ステップ1:悩みを書き出して「仕分け」してみよう

まずは、今あなたが抱えている悩みや心配事を、紙に書き出してみませんか?頭の中だけで考えていると、同じことをぐるぐるとループしてしまいがちですが、書き出すことで客観的に見つめることができます。

  • 仕事のこと(上司との関係、終わらないタスク、将来のキャリア…)
  • 家庭のこと(パートナーとのすれ違い、子育ての悩み、親の介護…)
  • 人間関係のこと(友人との距離感、ママ友とのお付き合い…)
  • 自分自身のこと(容姿のコンプレックス、性格の短所、健康への不安…)

書き出せたら、一つ一つの悩みについて、これは「変えられること」か「変えられないこと」か、仕分けをしてみましょう。

変えられないこと(受け入れる領域)変えるべきこと(勇気を出す領域)
上司の性格や気分上司への報告・連絡・相談の仕方、仕事の進め方の工夫
パートナーの過去や価値観パートナーへの言葉遣い、感謝を伝える頻度、対話の時間
子どもの生まれ持った個性子どもへの声かけ、関わり方、見守る姿勢
他人からの評価自分の行動、努力、スキルアップ
景気が悪いこと節約や家計の見直し、スキルを磨いて収入源を増やす努力

この仕分け作業をするだけでも、「あぁ、私は変えられないことで悩んで、無駄なエネルギーを使っていたんだな」と気づくことができて、心が少し軽くなるはずです。

ステップ2:「変えられること」に集中するための小さな勇気

仕分けができたら、次は「変えるべきこと」のリストに集中します。

でも、いきなり「自分を変えよう!」と意気込むと、ハードルが高く感じてしまいますよね。大切なのは、大きな目標を立てることではなく、ほんの小さな一歩を踏み出す「勇気」です。

  • 上司との関係に悩んでいるなら
    • まずは明日の朝、「おはようございます」と笑顔で挨拶することから始めてみる。
    • 報告書を出す時に、「お忙しいところ恐縮ですが、ご確認お願いします」と一言添えてみる。
  • 子育てにイライラしてしまうなら
    • 一日一回、子どもの目を見て「大好きだよ」と伝えてみる。
    • つい怒ってしまった後、「さっきはごめんね」と素直に謝ってみる。
  • 将来が不安なら
    • 一日15分だけ、資格の勉強をしてみる。
    • 気になっていた本を、図書館で借りてみる。

こんな風に、ベビーステップで構いません。大切なのは、「自分には変えられることがある」と実感し、行動を起こすことです。その小さな成功体験が、次の勇気を生み、自己肯定感を育ててくれます。

ステップ3:情報と上手に付き合う「賢さ」を身につける

ニーバーの祈りの核心である「区別する賢さ」。これは、情報が洪水のように押し寄せる現代において、特に重要なスキルだと言えるかもしれません。

私たちは毎日、テレビやインターネット、SNSを通じて、膨大な情報に晒されています。その中には、私たちを不安にさせたり、怒りを煽ったりするものも少なくありません。

そんな情報に振り回されず、心の平静を保つためには、意識的に情報との付き合い方を見直すことが大切です。

  • 情報を鵜呑みにしない
    • 「このニュースは誰が、どんな意図で発信しているんだろう?」と一歩引いて考えてみる癖をつける。
    • 感情的な見出しや、過激な意見にすぐ飛びつかない。
  • 情報から距離を置く時間を作る
    • 寝る前の1時間はスマホを見ない「デジタル・デトックス」を試してみる。
    • 休日は意識的にニュースから離れて、趣味や散歩など、心が安らぐ時間を作る。
  • 自分にとって本当に大切な情報を選ぶ
    • 世間の話題に無理に合わせる必要はありません。自分が心から知りたい、学びたいと感じる情報に時間を使う。

こうした「賢さ」は、変えられない世の中の出来事に心を乱されることなく、自分が変えるべきことに集中するための、大切な心の盾となってくれるはずです。


まとめ:不確実な時代を歩む、私たちのための羅針盤

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私たちは今、本当に変化が激しく、先の見えにくい時代を生きています。今日のコラムが取り上げたニーバーの言葉は、そんな時代を生きる私たちにとって、大きな道しるべとなるのではないでしょうか。

完璧な人間なんていないし、理想通りの社会がすぐにやってくるわけでもありません。ニーバーは、人間の不完全さや社会の矛盾といった、変えがたい現実を冷静に見つめるリアリストでした。

でも、彼は決してペシミスト(悲観主義者)ではありませんでした。その現実を受け入れた上で、それでも私たちにできることがあると、「変える勇気」の大切さを説き続けたのです。

  • 変えられない現実は、静かに受け入れる。そこで心を消耗しない。
  • 自分に変えられること、変えるべきことを見つけ、勇気をもって一歩を踏み出す。
  • そして何より、その二つを冷静に見極める賢さを持つ。

この三つのバランスを意識することが、予測不能な毎日の中で心のコンパスを持ち、自分らしい航路を進んでいくための鍵なのかもしれません。

今日、もしあなたが何かに行き詰まりを感じていたら、そっとニーバーの祈りを心の中で唱えてみてください。

「私がコントロールできることは何だろう?」

「今、私が勇気を出すべきは、どの部分だろう?」

そう問いかけるだけで、絡まっていた思考の糸がほどけて、進むべき道が少しだけ、明るく照らされるかもしれません。

この記事が、あなたの毎日を少しでも心穏やかに、そして前向きにするための、ささやかなヒントになれば、これほど嬉しいことはありません。


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