こんにちは。みなさんは、うな重やうな丼、お好きですか?
香ばしいタレの匂いが漂ってくると、それだけで幸せな気持ちになりますよね。特に「土用の丑の日」や、ちょっと元気を出したい時の「ご褒美ご飯」として、私たち日本人にとってウナギは欠かせない存在です。
でも最近、ニュースでこんな言葉を耳にして、ドキッとした方も多いのではないでしょうか。
「ウナギがワシントン条約で規制されるかもしれない」
「もうウナギが食べられなくなるの?」
もし本当に規制されたら、値段が跳ね上がったり、お店から姿を消してしまったりするのではないか……そんな不安がよぎりますよね。
今回は、先日行われた国際会議(ワシントン条約締約国会議 CoP20)で決まった最新の結果と、それが私たちの食卓にどう影響するのかを、できるだけ分かりやすくお話ししたいと思います。
専門的なニュースは難しい言葉が多くて敬遠しがちですが、実は私たちの生活に直結する大切な話なんです。ぜひ、友人とカフェでお茶をしているような気分で読んでみてくださいね。
速報 ウナギ規制案の結果と食卓への影響
まずは、一番気になる結論からお伝えしますね。
今回、ウズベキスタンのサマルカンドで開催された会議の結果、ウナギの規制案は否決されました。
つまり、今のところは「直ちにウナギの輸入が止まる」とか「明日から値段が数倍になる」といった最悪の事態は回避されたということです。まずは一安心ですね。
圧倒的多数での「否決」でした
今回の会議では、委員会での投票が行われました。その数字を見ると、世界の国々がどう判断したかがよく分かります。
- 賛成:35票
- 反対:100票
- 棄権:8票
ご覧の通り、反対票が賛成票を大きく上回りました。規制案を通すには全体の3分の2以上の賛成が必要なのですが、今回は過半数どころか、圧倒的な差で否決となったのです。
なぜ「規制なし」で今の価格が守られるの?
もし今回の提案が可決されていたら、どうなっていたのでしょうか。
提案されていたのは「附属書II」への掲載というものでした。これに載ると、ウナギを輸出入するたびに、いちいち政府の発行する「輸出許可書」が必要になります。
ウナギは鮮度が命です。稚魚であるシラスウナギの取引も、生きたままの成魚の取引も、スピードが勝負。もし手続きに時間がかかって空港で何日も足止めされたら、ウナギが弱って死んでしまいますよね。
また、膨大な事務手続きのコストがかかるため、それがそのまま価格に上乗せされてしまいます。
今回はこの規制が見送られたため、今まで通りの流通ルートが維持され、急激な価格高騰や入荷ストップというパニックは避けられたのです。
なぜ今、規制が提案されたのか?(世界の視点)
「否決されたなら、もう安心ね」と思ってしまいがちですが、そもそもなぜ、こんな提案が出てきたのでしょうか。
今回の提案者は、EU(欧州連合)やホンジュラスなどの国々でした。彼らが「ウナギ属の全種(ニホンウナギを含む)」を規制しようとした背景には、世界が抱える3つの深刻な危機感があります。
1. 世界的な資源の減少
一番の理由は、シンプルに「ウナギが減っている」という事実です。
日本だけでなく、世界中の海や川からウナギが減っています。IUCN(国際自然保護連合)という自然保護機関や各国の環境省も、「このままでは絶滅してしまうかもしれない」と警鐘を鳴らしています。
2. 「種のすり替え」問題
実は、ヨーロッパウナギという種類は、すでにワシントン条約で厳しく取引が規制されています。
するとどうなると思いますか? 悪い業者が「これは規制されていないニホンウナギですよ」や「アメリカウナギですよ」と嘘をついて、規制対象であるヨーロッパウナギを密輸しようとするケースが出てくるんです。
見た目だけでウナギの種類を見分けるのは、プロでも非常に困難です。加工されて蒲焼になっていたら、DNA検査をしない限りまず分かりません。
「他の種類のウナギもまとめて規制してしまわないと、違法取引の隠れ蓑にされてしまう」というのが、提案側の強い懸念でした。
3. 予防原則の適用
環境保護の世界には「予防原則」という考え方があります。
これは、「科学的な証明が完全でなくても、取り返しのつかない被害が起きる可能性があるなら、手遅れになる前に規制すべきだ」という考えです。
「本当に絶滅しそうかどうかのデータが揃うのを待っていたら、その時にはもう一匹もいなくなっているかもしれない」。だから早めにブレーキをかけよう、というのがEUの主張だったのです。
日本はなぜ反対したのか?(日本の主張)
世界が「守ろう」と言っているのに、なぜ日本は「反対」したのでしょうか?
これには、「ウナギを食べる文化を守りたい」という感情論だけではない、日本なりのロジックと事情がありました。

反対の理由は「科学的根拠」と「実績」
日本政府が会議で主張したのは、主に以下の4点です。
- 十分な資源量があるというデータ日本は「今の資源量は、国際取引によって絶滅するようなレベルではない」という科学的データを提示しました。
- 国際的な絶滅のおそれはない特定の地域で減っていることは認めるものの、それが「国際取引(貿易)」が直接の原因で絶滅に向かっているわけではない、という主張です。
- 日中韓台での資源管理が進んでいる日本、中国、韓国、台湾という東アジアの4つの国と地域で、すでに「養殖に入れる稚魚の量を制限しよう」という枠組みを作って協力していることを強調しました。「自分たちで管理できているから、条約による強制的な規制は不要だ」というわけです。
- 事務負担増による流通の停滞先ほどもお話しした通り、許可制になると事務手続きが膨大になります。特にウナギの稚魚(シラスウナギ)の漁期は短く、スピーディーな取引が必要です。規制が入ることで、健全な取引まで阻害されてしまう懸念を強く訴えました。
読者のみなさんが分かりやすいように、EUと日本の主張を表にまとめてみますね。
| 項目 | EU(提案側)の主張 | 日本(反対側)の主張 |
| 現状認識 | 世界的に激減しており危機的状況 | 科学的に見て、まだ絶滅するレベルではない |
| 対策 | 許可制(附属書II)にして管理すべき | 既存の枠組み(日中韓台)で管理可能 |
| 懸念点 | 規制逃れ(種のすり替え)が横行している | 規制による事務負担増と流通の混乱 |
| 基本姿勢 | 疑わしきは規制せよ(予防原則) | データに基づかない規制は不当(科学的根拠) |
結果的に、今回は日本の「科学的根拠不足」という主張に多くの国が賛同し、規制は見送られました。
重要 一度「否決」されたら、もう安心なのか?
さて、ここで一番大切な話をします。
今回のニュースを見て、「よかった! これでずっとウナギが食べられる!」と安心しきっていませんか?
実は、それは少し危険な楽観かもしれません。今回の決定は、あくまで「今回は見送る」というだけのことで、「将来にわたって規制しない」という約束ではないからです。

ワシントン条約会議は「3年ごとの通知表」
ワシントン条約の締約国会議(CoP)は、およそ3年ごとに開催されます。
これは例えるなら、3年ごとの「健康診断」や「通知表」のようなものです。今回たまたま「再検査なし」で済んだとしても、生活習慣(資源管理)が悪ければ、3年後の次の検診で「即入院(規制)」と言い渡される可能性は十分にあります。
次回以降、議題に上がる可能性は?
残念ながら、今後も議題に上がる可能性は極めて高いと言わざるを得ません。
一度否決されたからといって、もう二度と提案してはいけないというルールはないのです。むしろ、世界の環境保護の流れは年々強まっています。
もし次の会議までに、以下のような状況になっていたらどうなるでしょうか?
- 日本のウナギ資源がさらに激減した。
- 稚魚の密漁や、出所不明のウナギの取引が減らなかった。
- 日中韓台の連携がうまくいかず、管理がずさんだと思われた。
そうなれば、次はEUだけでなく、他の多くの国も「やっぱり日本には任せておけない。国際ルールで縛るしかない」と判断を変えるかもしれません。
今回の100票という反対票は、「日本への信頼」というよりは、「現時点ではまだ様子見でいいだろう」という猶予期間をもらっただけ、と捉えるのが賢明です。
私たちが直面している「ウナギ問題」の現実
規制は回避されましたが、ニホンウナギが置かれている状況が良くなったわけではありません。ここで、私たちが直面している厳しい現実について、少し掘り下げてみましょう。
レッドリストでは「絶滅危惧IB類」のまま
国際的な自然保護機関(IUCN)のレッドリストにおいて、ニホンウナギは「絶滅危惧IB類(EN)」に指定されています。
これは、「近い将来、野生での絶滅の危険性が高い」というランクです。トキやパンダと同じくらい、あるいはそれ以上に心配されている生き物だということを、私たちは忘れてはいけません。
なぜウナギは減っているの?
「私たちが食べ過ぎたからでしょ?」
そう思う方も多いと思います。確かに「過剰な漁獲」は大きな原因の一つです。でも、それと同じくらい、あるいはそれ以上に深刻なのが「環境の変化」なんです。
ウナギの減少要因は主に3つあります。
- 海洋環境の変化ウナギは、マリアナ海溝という遥か南の海で卵を産みます。海流に乗って日本までやってくるのですが、温暖化などで海流が変わると、うまくたどり着けない稚魚が増えてしまいます。
- 成育場の環境変化と喪失ここが非常に重要です。川にたどり着いたウナギは、川や湖で5年から10年ほど暮らして大人になります。しかし、日本の川はコンクリートで固められ、ウナギが隠れる「穴」や「石の隙間」がなくなってしまいました。隠れ家がないと、鳥や大きな魚にすぐに食べられてしまいます。
- 移動の阻害川にはダムや堰(せき)がたくさんあります。手足のないウナギにとって、高い段差は超えられない壁です。海から川へ登れない、あるいは大人になって海へ産卵に戻れない。これが数を減らす大きな要因になっています。
ブラックボックスな取引の実態
もう一つの大きな課題が、「不透明な取引」です。
みなさんはスーパーでウナギを買う時、「国産」という表示を見ますよね。でも、そのウナギが元々どこの海で獲れた稚魚で、どういうルートで養殖池に入ったのか、完全にトレースできるものは実は多くありません。
- IUU漁業(違法・無報告・無規制)密漁された稚魚が、正規のルートに紛れ込んで流通してしまうリスク(IUUリスク)が、ウナギは他の魚に比べて極めて高いと言われています。
「知らない間に、密漁に加担してしまっているかもしれない」。消費者がそう不安に思わなくて済むような透明性が、今求められています。
国内での取り組みと回復への道筋(環境省の方針)
暗い話ばかりになってしまいましたが、希望もあります。日本国内でも、ウナギを守り、増やそうという動きが本格化しているからです。
環境省が打ち出している「国内の生息地保全・回復の考え方」には、とても大切なキーワードが含まれています。
「縦」と「横」のつながりを取り戻す

川の環境を良くするために、2つの方向の「つながり」を重視しています。
- 縦方向のつながり川の上流から下流、そして海まで。ダムや堰に「魚道(魚の通り道)」を作ったり、段差を緩やかにしたりして、ウナギが自由に行き来できるようにすることです。
- 横方向のつながり川の本流と、周りの水田や水路とのつながりです。昔の田んぼや水路は、ウナギにとって絶好の隠れ家や餌場でした。このネットワークを再生しようとしています。
隠れ家のある「多様な川」へ
ただ水を流すだけの「水路」ではなく、生き物が住める「川」に戻す取り組みも進んでいます。
- 隠れ場所の確保: 川底に石を置いたり、水草を茂らせたりして、ウナギが潜れる場所を作ります。
- 多様な水深: 浅瀬があったり、深い淵があったり。深さがバラバラなほうが、いろいろな生き物が住めます。
- 汽水域(河口)の再生: 海と川が混ざる河口域は、ウナギが成長するために特に重要な場所です。干潟の保全などが進められています。
ウナギは「水辺の生態系のシンボル」です。ウナギが住みやすい川は、他の小魚やエビ、カニ、そしてそれらを食べる鳥たちにとっても住みやすい豊かな環境だと言えます。
これからのウナギとの付き合い方(私たちにできること)
最後に、私たち消費者ができることを考えてみましょう。
「規制されなかったから、今まで通り安くたくさん食べよう!」ではなく、この結果をきっかけに、ウナギとの付き合い方を少しだけアップデートしてみませんか?

1. 食べる頻度とシーンを見直す
ウナギは「特別な日のご馳走」という原点に立ち返ってみるのはどうでしょうか。
安価なウナギを日常的に食べるのではなく、「ハレの日」や「本当に頑張った日」に、少し高くても質の良いウナギをじっくり味わう。そうすることで、一匹一匹の命への感謝も深まりますし、結果的に過剰な消費を抑えることにもつながります。
2. 「選ぶ目」を持つ
お店や商品を選ぶ時に、少しだけ意識を変えてみてください。
- 産地・加工地をチェックする:パッケージの裏面を見てみましょう。どこで育ち、どこで加工されたのか。情報を隠さずに公開している商品は信頼できます。
- 信頼できるお店で味わう:「資源管理に取り組んでいます」と明言している養鰻業者さんや、伝統を守りながら適正な価格で提供している専門店を選ぶことも、真面目な業者さんを応援することになります。
3. 代替の魚種やメニューも楽しむ
最近は、ナマズや豚肉を使った「ウナギ風」の蒲焼もすごく美味しくなっていますよね。
「今日は絶対にウナギじゃなきゃダメ!」という日以外は、こうした代替メニューや、他の旬の魚を楽しむ心の余裕を持つのも素敵です。食卓のバリエーションも広がりますよ。
4. 関心を持ち続けること
これが一番大切かもしれません。
「今回の会議でどうなったのかな?」「最近、川の環境はどうかな?」。私たちが関心を持ち続けること自体が、行政や企業の取り組みを後押しする力になります。
もし消費者が無関心だと、「どうせ安ければ売れるだろう」という密漁や乱獲はなくなりません。
まとめ:おいしいウナギを、未来の子どもたちにも
今回のワシントン条約会議での「否決」は、私たちに与えられた「猶予期間」です。
世界は日本を見ています。「反対したからには、ちゃんと自分たちで守れるんだよね?」と。
ウナギは、日本の夏に欠かせない、心も体も元気にしてくれる素晴らしい食文化です。この味を、私たち世代で終わらせてしまうのはあまりにも悲しいですよね。
美味しいウナギを未来の子どもたちも笑顔で食べられるように。
まずは今日から、スーパーでウナギを見かけた時に「君はどこから来たのかな?」と、少しだけ想いを馳せてみてください。そんな小さな一歩が、きっと大きな変化につながっていくはずです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました
食べることで、未来につなぐエール
記事の中で「産地や加工地を確認して、信頼できる地域を応援しよう」というお話をしましたが、「じゃあ、具体的にどこを選べばいいの?」と迷ってしまう方もいらっしゃるかもしれません。
そこで最後に、私が注目している「美味しく食べて、環境保護も応援できる」素敵な選択肢を一つご紹介させてください。
こちらは、ウナギの生産量日本一を誇る鹿児島県指宿(いぶすき)市の品です。
指宿は、豊富な地下水と温泉に恵まれた「水」の美しい土地。ウナギにとって命とも言える「よい水環境」を守りながら、真摯に資源管理に取り組んでいる地域です。
私たちがこうした産地の品を選ぶことは、単に美味しいものを買うだけでなく、ウナギが育つ美しい自然環境や、伝統を守る生産者さんへの「直接的なエール(投票)」になります。
「食べる」という一番身近な幸せを通して、ウナギの未来を一緒に守っていきませんか?









