街の文具店や書店を覗くと、色とりどりの手帳たちがもう主役の座を占めていますね。毎年この時期になると、新しい手帳を前にして、来年への期待と少しの気ぜわしさを感じるのは私だけではないはず。
スマホで何でも管理できる時代なのに、どうして私たちは毎年、新しい手帳に心ときめくのでしょう?
それはきっと、手帳が単なるスケジュール管理ツールではなく、「私」という人間が日々をどう生き、どう感じたか、そのすべてを温かく受け止めてくれる「心の宝箱」だからかもしれません。
今回は、日経新聞の「春秋」で取り上げられた詩人・石垣りんさんの手帳の記録から、忙しい毎日の中でも、私たちの日常を豊かにするアナログ手帳の素敵な力について一緒に考えていきましょう。
日本経済新聞 2025年11月1日(金)朝刊春秋の要約と手帳に綴る日常の記録
文具店や書店に、早々と来年の手帳が並んでいる。毎年のことながら、気ぜわしさが迫る11月だ。思えばこの手帳というもの、デジタルの世にも案外すたれない。かつては社員に1冊ずつ配ってくれる会社も多かった。みんな同じ手帳にスケジュールなどを記したのだ。
▼そこに刻まれた言葉が、ときにはよみがえって文芸となる。詩人の石垣りんは1998年までの40年あまり、勤め先だった銀行などの手帳に日記を残していた。鉛筆書きで、見開きに1週間の簡潔なメモである。それを写真に撮り、抜粋して刊行された「石垣りんの手帳」。働きながら詩作を続けた女性の戦後史が息づく。
(有料版日経新聞より引用)
🌸 詩人・石垣りんさんの手帳が教えてくれること
石垣りんさんの手帳は「戦後を生きる女性の記録」
詩人・石垣りんさんは、銀行などに勤めながら詩作を続けた方です。彼女が1998年までの40年以上にわたって残した手帳の記録は、単なるスケジュールのメモを超え、一人の女性がどのように「働き、生きたか」を物語っています。
- 記録の特徴: 勤め先の銀行などから配られた手帳に、鉛筆で書かれた「見開き1週間」の簡潔なメモ。
- 記録された内容:
- 日付、場所、時刻:「10.38天の川寝台で山形県酒田へ」
- 旅の情景:「風雨強く虹も出る。日本海は大荒れ」
- 日常のささやかな楽しみ:「東京駅フジアイスでハンバーグ アートコーヒー 夜キタク」
- 行きつけの喫茶店や洋食屋の記録
この淡々とした記録から、彼女の日常、旅情、そして日々の暮らしの味わいが浮かび上がります。
「ひとりで生きたけれど、決して孤独ではなかった」手帳が映す素顔
石垣りんさんは生涯独身でしたが、手帳に残された記録からは、彼女が孤立していたわけではないことが分かります。
版元「katsura books」の織田桂さんは「りんはひとりで生きたけれど、決して孤独ではなかった。手帳は宝物だと思いました」と語っています。(有料版日経新聞より要約)
喫茶店や洋食屋の記録は、日々の暮らしの中に「いつもの場所」や「小さな幸せ」があったことを示しています。手帳は、彼女が歩んだ「たしかな日常」をたどるための、まるで宝物のようなアルバムなのです。
📝 手帳を「宝物」にするための3つの簡単な記録術
手帳をただのToDoリストやスケジュール表で終わらせたくない、でも日記のように長文を書くのは続かない。そんな忙しい現代の女性にこそ試してほしい、石垣りんさんの記録に学ぶ「簡潔で味わい深い」記録術をご紹介します。
1. 5W1Hの「H」を意識する:感情や感想を添える
スケジュールだけの記録に、ほんの少し感情や感想を付け足すだけで、記録は「記憶」に変わります。
| 項目 | スケジュールのみの記録 | 「私」の記録(Hを意識) |
| 会議 | 14時 A社との打ち合わせ | 14時 A社との打ち合わせ(思ったより緊張。次回は資料の見せ方を工夫しよう) |
| 食事 | 昼 トンカツ定食 | 昼 トンカツ定食(**久しぶりに美味しかった!**次はエビフライも食べたい) |
| 出来事 | 銀行へ。スーパーで買い物。 | 銀行へ。スーパーで買い物(新作の紅茶を買ってみた)。 |
このように、出来事の後に「どう感じたか(How I felt)」を一言添えるだけで、当時の状況が鮮明によみがえります。
2. 「場所」と「時間」を具体的に残す:日常の点描をちりばめる

石垣りんさんが「東京駅フジアイスでハンバーグ」と具体的に記したように、特定の店名や場所、時間を記録することで、後から読み返したときに「その時の空気感」までが思い出されます。
- カフェでの読書:「(場所)で、(読んだ本)を少し。BGMのジャズが心地よかった」
- 通勤中の風景:「(駅)のホームで、きれいな朝焼けを見た。今日は良い日になりそう」
- 新しいお店:「新しくできた(お店の名前)へ。レモネードが爽やかで、また来たい」
場所と時間を記録することは、その瞬間の「風景写真」を切り取る作業です。
3. モノやサービスを記録する:「私」の好みをアーカイブする
手帳は、自分の好みや傾向を把握するための貴重なデータにもなります。
| 記録するモノ・サービス | なぜ記録するのか |
| 映画や本 | 感動した理由や、いつ見たか(読んだか)をメモしておくと、誰かに勧める時に役立ちます。 |
| お土産や頂き物 | 誰から、何をいただいたかを記録しておくと、お礼や次の贈り物を選ぶ際のヒントになります。 |
| 購入品やコスメ | 使い心地やリピートしたい理由を書いておくと、無駄遣いを防ぎ、自分にとって本当に必要なものを見極められます。 |
📜 デジタル時代の今こそ、アナログ手帳を使う特別な理由
スマホやPCでスケジュールを管理するのが主流の今、どうしてアナログ手帳は廃れないのでしょうか。それは、デジタルツールにはない、アナログならではの「五感に訴える」力があるからです。

1. 「手書き」がもたらす心の整理と記憶定着
手書きで文字や絵を書く行為は、脳を活性化させ、情報を記憶に定着させる効果があると言われています。
- 五感の刺激: 紙の質感、インクの匂い、ペンが走る音といったアナログな刺激が、記録をより鮮明な「記憶」として残します。
- 思考の整理: 手書きはデジタル入力に比べて時間がかかるため、自然と「何を、どう書くか」を考える時間になります。これは、頭の中のモヤモヤを整理する「心のデトックス」のようなものです。
2. 「一覧性」と「俯瞰」で人生をデザインする
手帳の「見開き」は、スマホの小さな画面では得られない「一覧性」を提供します。
- 一週間の流れ: 見開きで一週間を見渡せることで、仕事とプライベートのバランスや、時間の使い方を客観的に把握できます。
- 過去の記録との出会い: デジタルデータのように検索しないと見つからないのではなく、ページをめくるだけで過去の記録と偶然再会できます。この「偶然の発見」が、ふとした気づきや懐かしい感情を呼び起こし、日常を豊かにしてくれます。
3. 「私だけのもの」という愛着と特別感
社員に配られる「みんな同じ手帳」だったとしても、そこに自分の文字で書き込み、シールを貼ったり、チケットを挟んだりすることで、それは「世界に一冊だけの私」を映す鏡になります。
- デジタルは共有が前提ですが、アナログ手帳は基本的に「自分だけのパーソナルスペース」です。
- この特別感が、手帳を開くこと、記録を続けることへの愛着やモチベーションにつながります。
🎁 手帳を「未来への宝物」にするためのヒント
手帳は未来の予定を書き込むだけでなく、すでに過ぎ去った「過去」を振り返り、今の「自分」を再確認し、より良い「未来」へつなげるツールです。

手帳を読み返す「時間」を意識的に作る
年末の大掃除のように、手帳も「おさらい」の時間を設けてみましょう。
| 読み返すタイミング | おすすめの行動 | 読み返しの効果 |
| 週の終わり | 記録した出来事に、今の気持ちでマーカーを引く。 | 充実した日や反省点を把握し、来週の計画に活かせる。 |
| 月の初め | 先月の記録から、楽しかったこと、頑張ったことを抽出してまとめる。 | 自分の成長や変化を確認でき、自己肯定感につながる。 |
| 年末 | 一年間の手帳を並べ、今年のテーマや目標が達成できたか確認する。 | 来年の目標設定や、次の手帳を選ぶ際の重要なヒントになる。 |
石垣りんさんの手帳が時を超えて文芸として生き返ったように、あなたの手帳もまた、数年後、数十年後の自分にとっての「大切な宝物」となるはずです。
ゆく秋のこの時期に、ぜひ、来年の手帳選びから「私らしい記録」を始める準備をしてみてはいかがでしょうか。
目的別!「私に寄り添う」手帳を選ぶための7つのヒント

前回の記事で、手帳が単なるスケジュール帳ではなく、私たちの日常を豊かにする「宝物」になることを実感しましたね。
でも、いざ来年の手帳売り場に行くと、種類が多すぎて迷ってしまう…という声をよく聞きます。
手帳選びで失敗しないための秘訣はただ一つ。それは、「この手帳で、何をしたいか?」という「目的」を明確にすることです。
ここでは、働く女性の主な目的別で、最適な手帳の「フォーマット(中身のレイアウト)」と「サイズ」を見つけるためのヒントをご紹介します。
🎯 目的1:【仕事・時間管理重視】サクサク進めたい!ビジネス手帳の選び方
仕事で手帳を使う最大の目的は、「時間を正確に管理し、タスクを確実にこなすこと」です。上司やクライアントとの打ち合わせ、移動時間、締切など、細かな情報を効率よく把握できるフォーマットを選びましょう。
📅 最適なフォーマット:週間バーチカル
| フォーマット名 | 特徴 | 向いている人 |
| 週間バーチカル | 見開き1週間で、縦に時間軸(目盛り)が並びます。まるで時間割のように管理できます。 | 1時間単位で予定が入る人、打ち合わせや移動が多い人、スキマ時間を視覚化したい人。 |
| 週間レフト | 左ページに1週間の予定、右ページに広いメモ欄がある形。手帳とノートを兼ねたい人におすすめ。 | 予定はざっくりでOK、メモやToDoリストをたっぷり書きたい人、会議の議事録も一冊にまとめたい人。 |
| マンスリー | カレンダー形式。薄くて軽いのが魅力。 | 予定が少なく、持ち運びやすさ重視の人、長期プロジェクトの全体像を俯瞰したい人。 |
👜 最適なサイズ:B6~A5スリム
- B6サイズ: 文庫本より少し大きいサイズで、バッグに入れやすく、記入スペースも確保できる、最もバランスの取れたサイズです。
- A5スリム/A5: デスクに置いて使うことが多いなら、ゆったり書き込めるA5サイズがおすすめ。複数のタスクや資料を貼りたい場合にも便利です。
🎯 目的2:【ライフログ・自己肯定感UP】日常を豊かにする「私」の記録手帳
石垣りんさんのように、日々のささやかな出来事や感情を記録し、「私」の歴史を残すための手帳です。大切なのは、「書きたいときにたっぷり書ける自由さ」と「続けられる気軽さ」です。
📝 最適なフォーマット:1日1ページ、または週間ブロック
| フォーマット名 | 特徴 | 向いている人 |
| 1日1ページ | 毎日たっぷり書ける贅沢なスペース(ほぼ日手帳など)。その日の気分や写真、チケットを貼ることもできます。 | 日記やスクラップブックのように使いたい人、深く自己内省したい人、書くことが好きな人。 |
| 週間ブロック | 見開き1週間で、1日分がボックス型に区切られています。メモ欄も豊富で、日記と予定をバランスよく書けます。 | 予定とライフログを両立させたい人、毎日の食事や体調、運動などをテーマを決めて記録したい人。 |
| ガントチャート | 横軸が日付、縦軸に記録項目を入れられる形式。 | ダイエットや習慣化の記録など、目標達成のための進捗管理をしたい人。 |
☕ 最適なサイズ:A6~A5
- A6サイズ(文庫本サイズ): 毎日持ち歩いて、カフェなどでサッと開いて書きたい人に最適。コンパクトなので、記録を気負わず続けられます。
- A5サイズ: 主に自宅や職場で使い、イラストやスクラップなど、創造性豊かに記録したい人にぴったり。
🎯 目的3:【マルチ管理】仕事もプライベートも!バランス重視の手帳
仕事の予定、家族の予定、自分のプライベートな予定(習い事など)を同時に管理したい場合、いかに情報を見やすく整理できるかが重要になります。
🏡 最適なフォーマット:週間レフト、または変形バーチカル
| フォーマット名 | 特徴 | 分け方のアイデア(例) |
| 週間レフト | 左ページ(予定)を縦に線で区切って使う。右のメモページでToDoリストや買い物リストを管理。 | 左ページ:「仕事」と「プライベート」で縦に分ける。 |
| マンスリー | ひと月全体のカレンダーに、色違いのペンで書き分ける。家族やプロジェクトごとの予定把握に特化。 | 予定:「黒」で仕事、「ピンク」で家族、「青」で自分。 |
| ガントチャート | 複数案件の進捗管理に向く形式を、家族構成や役割(例:仕事、家事、子どもの習い事)に見立てて使う。 | 縦軸:「プロジェクトA(仕事)」、「プロジェクトB(習い事)」、「家事タスク」。 |
⚖️ 最適なサイズ:B6
- B6サイズ: 持ち運びと書き込みやすさのバランスが良いため、職場と自宅の両方で使いたいマルチタスク派に最適です。
🔎 失敗しない!手帳の「紙質」と「始まり曜日」のチェックリスト
フォーマットとサイズを決めたら、最後に手帳を長く愛用するためのチェックポイントを確認しましょう。
1. 紙質:書き心地と裏抜けはどうか?
| チェックポイント | なぜ重要? |
| 厚さ | 万年筆や水性ペンを使う人は、インクが裏のページに染みないか(裏抜けしないか)チェックが必要です。 |
| 色味 | 真っ白の紙は目が疲れやすいことがあります。クリーム色や淡い色味の紙は、目に優しく、落ち着いた気持ちで書き込めます。 |
| 方眼・罫線 | 罫線(線)の濃さも重要。ライフログなどで自由に書きたい場合は、線の色が薄いものや、**方眼(マス目)**になっているものがおすすめです。 |
2. 始まり曜日:自分の生活に合っているか?
- 月曜始まり: 平日(仕事)と休日(プライベート)が明確に分かれるため、ビジネスシーンで好まれます。
- 日曜始まり: カレンダーと同じため、家族や学校の予定など、一般的なカレンダーに馴染んだ使い方をしたい人に好まれます。
🎁 終わりに:「私らしい」一冊との出会いを大切に
手帳選びは、来年の「私」をデザインする、最初のクリエイティブな作業です。
どの手帳が良いか迷ったら、ぜひ店頭で実際に試し書きをしてみてください。その紙の質感、ペンの滑り、サイズ感が「私にしっくりくるか」という直感を大切にすることが、手帳を最後まで使い切るための最大の秘訣です。
あなたにとって、毎日を開くのが楽しみになるような、素敵な一冊が見つかりますように。




