30秒でわかるまとめ
- ごみを燃やせばCO2は出る。「ゼロ」は煙突が空になる意味ではなく、出る量と別の場所で取り除く量を合わせた「差し引き」がゼロ〜マイナスになり得るという意味。
- 生ごみや紙は、育つときに大気のCO2を吸ったバイオマス由来。回収して地下などへ長く閉じ込めると差し引きがマイナス(カーボンネガティブ)になり得る。
- JFEのMOF実証は「つかまえる」を安くする挑戦。まだ実証段階で、はこぶ・しまうの関門が残る。税金やごみ袋代の値上げが決まったわけではない。
「ごみを燃やしてCO2が減るって、どういうこと?」——ニュースでそんな言葉を見て、私は思わず二度見しました。だって、燃やせば煙突からCO2は出ますよね。それなのに「実質ゼロ」や「マイナス」と言われても、ちょっと待って、と言いたくなります。
このモヤモヤ、実はきちんと理由があります。カギは、ごみの中に入っている「生ごみ・紙・木」といったバイオマス(生き物由来の資源)と、それを燃やしたあとに出るCO2をどう回収するか、という話です。
この記事は、東京都のクリーンプラザふじみでJFEエンジニアリングが進めている新しいCO2回収技術(MOF)のニュースをきっかけに、「燃やしているのに減る」のカラクリを、生活目線でほどいていきます。
この記事で分かること
- ごみを燃やしてCO2が出ているのに「実質ゼロ」と言える理由
- 生ごみや紙が「CO2ゼロ扱い」になる意味と、その落とし穴
- 回収したCO2の行き先と、税金・ごみ袋代への影響
ごみを燃やしているのに「CO2ゼロ」と言われるのはなぜ?

まず正直に言うと、ごみを燃やせばCO2は出ています。「ゼロ」という言葉は、煙突から何も出なくなるという意味ではありません。ここを勘違いすると、話がまるごとズレてしまいます。
実際にはCO2は出ている
ごみを1トン燃やすと、だいたい1トンのCO2が発生します。日本全国のごみ焼却施設からは、1年で約3,000万トン近いCO2が出ていると推計されています。つまり「燃やす」という行為そのものは、これからも二酸化炭素を空に送り出し続けます。
「CO2ゼロのごみ処理場」という見出しを読むと、煙突から水蒸気ひとつ出ない工場を想像してしまいますよね。私も最初はそう思っていました。でも実際は、白い煙(多くは水蒸気)もCO2も、物理的には出続けます。
「ゼロ」は差し引きの話
ではどこが「ゼロ」なのか。答えは、温室効果ガスの「足し算・引き算」の結果です。出ていくCO2と、別のところで取り除かれるCO2を合わせて考えたとき、差し引きがゼロやマイナスになり得る、という意味なんです。
環境問題の世界では、これを「実質ゼロ(ネットゼロ)」と呼びます。プラスとマイナスを合計してゼロ、というイメージです。ここが今日いちばん大事なところなので、覚えておいてください。
だから「装置をつければ解決」ではない
差し引きでマイナスにするには、出たCO2をきちんと集めて、さらに長く閉じ込める必要があります。煙突の横に回収装置を置いただけでは、まだ半分。集めたCO2の行き先まで用意して、はじめて計算が成り立ちます。
この「集めるだけでは終わらない」という感覚を持っておくと、ニュースの読み方がかなり変わります。
生ごみや紙から出るCO2はどう数えられる?

「実質ゼロ」が成り立つ出発点が、生ごみや紙などのバイオマス由来のCO2です。ここは少しややこしいのですが、順番に見ればちゃんと納得できます。
植物は育つときにCO2を吸っている
紙のもとになる木も、生ごみのもとになる野菜や米も、育つ過程で大気中のCO2を吸い込んで体を作っています。だから、それを燃やしてCO2が出ても、「もともと空にあったCO2が、ぐるっと回って戻っただけ」と考えられます。
国際的なルール(IPCCという専門機関のガイドライン)でも、バイオマスを燃やして出たCO2は、エネルギー分野の排出量には数えず、別枠の「情報」として扱う決まりになっています。二重に数えないための仕組みです。
化石燃料とは「出発点」が違う
一方、プラスチックや合成繊維は石油からできています。石油は数億年前の炭素が地下に眠っていたもの。これを掘り出して燃やすと、地下にあった炭素が新しく大気に加わります。ここが、生ごみや紙との決定的な違いです。
同じ「燃やしてCO2」でも、循環の中に戻すのか、新しく足すのか。この差で数え方が変わります。
「ゼロ扱い」=「燃やしていい」ではない
ここで注意。「生ごみはCO2ゼロ扱いなら、どんどん燃やしていいの?」と思うと危険です。ゼロ扱いはあくまで計算ルールの話で、燃やせば大気にCO2が出るのは事実。森がきちんと育て直されている、という前提があって初めて成り立つ考え方です。「バイオマスだから環境に負荷がない」とまでは言えません。
バイオマス由来CO2を回収すると「マイナス」になる

生ごみや紙のCO2が「差し引きゼロ」なら、それを回収して閉じ込めたら、差し引きは「マイナス」になります。これが、ごみ処理場がカーボンネガティブになれると言われる理由です。
BECCSという考え方
植物が大気からCO2を吸う → 紙や食品として使う → ごみとして焼却する → 出たCO2を回収する → 地下などへ長期間しまう。この流れを通すと、本来なら大気に戻るはずだったCO2を、途中でつかまえて隔離したことになります。
この「バイオマス+回収・貯留」の組み合わせを、専門用語でBECCS(ビーイーシーシーエス)と呼びます。言葉は難しいですが、中身は今の5ステップだけです。
数字でイメージしてみた
仮に、1年で1万トンのCO2を出すごみ処理場を考えます。そのうち6,000トンが生ごみや紙などのバイオマス由来、4,000トンがプラスチックなど化石由来だったとします。
ここで排ガス中のCO2を90%、つまり9,000トン回収して地下に閉じ込めたとしましょう。すると、化石由来の4,000トン分をまず打ち消して、さらに大気からおよそ5,000トンを取り除いた計算になります。燃やしているのに、街全体のCO2がマイナス5,000トン。これがカーボンネガティブの正体です。
もちろんこれは分かりやすくした仮の数字で、実際の割合は地域やごみの分別状況で変わります。それでも「燃やす=必ずプラス」ではない、という感覚はつかめると思います。
回収先がなければ成立しない
大事なのは、この計算が「回収したCO2をちゃんとしまえた場合」に限られること。集めただけで放置したり、また空に戻る使い方をしたら、マイナスにはなりません。次の章で、その行き先を見ていきます。
新素材MOFは何を変えるの?

今回のニュースの主役、MOF(金属有機構造体)は、この「つかまえる」を安くしようとする材料です。
小さな穴だらけのスポンジのような材料
MOFは、金属と炭素などの部品を組み合わせてつくる、ナノサイズの穴がびっしり空いた材料です。穴の大きさや性質を設計できるので、「CO2だけを選んで吸いつける」ように調整できます。2025年のノーベル化学賞は、この分野を切り開いた京都大学の北川進特別教授に贈られました。
加熱エネルギーを減らせる可能性
これまで主流だった「アミン法」という方法は、薬品の液にCO2を吸わせたあと、100度以上の高い熱でCO2を追い出します。この加熱に大量のエネルギーがかかるのが弱点でした。
MOFは、液を沸かすかわりに圧力を下げたり、60度くらいの低い排熱を使ったりするだけでCO2を放せます。だから運用コストを半分にできる可能性がある、と説明されています。ただしこれは実証で目指している目標値で、確定した成果ではありません。
JFEがクリーンプラザふじみで実証中
JFEエンジニアリングは、東京都調布市と三鷹市が共同運営するごみ焼却施設「クリーンプラザふじみ」で、このMOFを使ったCO2回収の実証を進めています。2027年3月末までのパイロット実証を行い、2030年頃の商用化を目標に掲げています。「ノーベル賞の技術だからすぐ全国で使える」という段階ではなく、今はまだ試験中、というのが正確なところです。
CO2を空気から直接つかまえる技術は、ほかにも国内で動き始めています。関心があれば、こちらも読んでみてください。
→ 空気からCO2を回収して資源化?東大発スタートアップPlanet SaversのDACがすごい理由
回収したCO2はそのあとどうなる?

つかまえたCO2は、大きく分けて「使う(CCU)」か「しまう(CCS)」のどちらかへ進みます。この2つは似ているようで、行き着く先がまったく違います。
野菜の栽培や建材に使うCCU
CCUは、回収したCO2を資源として使い直す方法です。ビニールハウスに送って野菜の成長を助けたり、ドライアイスにしたり、コンクリートに固定したり。オランダのごみ処理場では、回収したCO2を重曹(ベーキングソーダ)に変えて、自分の工場の排ガス洗浄に再利用している例もあります。
地下深くに閉じ込めるCCS
CCSは、CO2を地下1,000メートルより深い地層に押し込んで、長い時間かけて閉じ込める方法です。本当の意味で「大気から取り除いた」と言えるのは、基本的にこちら。カーボンネガティブを成立させるには、このCCSが欠かせません。
日本では、政府とJOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)が2030年までの事業開始を目指して、苫小牧や首都圏など複数の候補地で貯留場所の準備を進めています。
燃料に変えたCO2は、使えばまた大気へ
ここが勘違いしやすいポイント。CO2を水素と反応させて合成メタンや合成燃料にする技術がありますが、その燃料を最終的に燃やせば、CO2はまた空に戻ります。CCUは「炭素の循環を長くする」効果はあっても、すべてが永久固定ではないんです。
合成燃料そのものについては、こちらの記事で詳しく整理しています。
→ ガソリン代が700円になる未来!?人工石油が「今の愛車」を救う理由を解説
実現までに必要な「つかまえる・はこぶ・しまう」
CO2回収型のごみ処理場は、3つの段階が全部つながって初めて完成します。今回のMOF実証が挑んでいるのは、主に最初の「つかまえる」だけ。全体像を表にすると、こうなります。
| 段階 | やること | 主な課題 |
|---|---|---|
| つかまえる | 焼却排ガスからCO2を分離する | 費用、エネルギー、吸着材(MOF)の耐久性 |
| はこぶ | 液化して利用先や貯留先へ運ぶ | タンクローリー、船、施設内の搬出動線 |
| しまう | 地下や建材へ長期間固定する | 貯留場所の確保、安全確認、費用 |
つかまえる:MOFが挑む入り口
排ガスには水分やSOx(硫黄酸化物)、塩化水素などの不純物も混じっています。MOFは水分を吸いやすい性質があり、CO2の吸着とぶつかって性能が落ちる心配や、酸性のガスで材料が傷む心配があります。数万回の吸ったり放したりに耐えられるか、が実証の焦点です。
はこぶ:内陸の焼却場ほど大変
ごみ処理場は全国の市町村に点在しています。海沿いの大きな工場と違って、内陸の焼却場から貯留地まで直接パイプラインを引くのは現実的ではありません。液化したCO2をタンクローリーで港まで運び、船で貯留地へ——という手間とコストがかかります。都心では大型車の出入りできる動線の確保も課題です。
しまう:場所と安全と費用
地下にしまうにも、どこにでも埋められるわけではありません。安定した地層を選び、漏れないか確認し続ける必要があります。回収から貯留まで含めた費用は、今のところCO2の1トンあたり約1万3,000〜2万円と見積もられています。
私たちのごみ分別もカーボンネガティブに関係する?
意外かもしれませんが、家庭のごみ分別も、この話とつながっています。
プラスチックは化石由来、生ごみ・紙・木はバイオマス由来
焼却炉に入るごみのうち、プラスチックを減らして生ごみや紙の割合が増えると、その施設のバイオマス由来CO2の比率が上がります。理論上は、回収したときの「マイナス排出」の効果が大きくなる、というわけです。
でも「燃やすごみを増やそう」ではない
ここは強調しておきたいところ。カーボンネガティブのために、燃やすごみをわざと増やすのは本末転倒です。いちばん大事なのは、ごみそのものを減らし、使えるものは再使用・再資源化すること。その順番は変わりません。
ごみ処理をめぐる大きな動きについては、こちらも参考になります。
→ ごみ処理会社が「埋め立て地」まで買っちゃった!?私たちの暮らしはどう変わるの
税金やごみ袋代は上がるの?
生活に直結する疑問なので、ここも冷静に見ておきましょう。
設備費と維持費はかかる
CO2回収の設備を新しく入れるには、数十億円規模のお金と、そのあとの運転・維持の費用がかかります。ごみ処理場は税金で運営されているので、この負担をどうするかは大きな論点です。
今回の実証だけで値上げが決まったわけではない
ただ、今の段階はあくまで実証です。「実証を始めたからごみ袋代が倍になる」といった話ではありません。国は自治体向けの補助制度を用意していて、補助の割合は対象の事業や年度によって変わります。私の住む自治体でどうなるかも、まだ決まっていません。
国の支援と自治体の連携がカギ
普及を進めつつ住民負担を抑えるには、国の予算からの重点的な支援や、複数の自治体が処理場を共同で持つ広域化、回収したCO2を「環境価値」として売る仕組みなどが必要だと言われています。「すぐ値上げ」と決めつけるのは早い、というのが今のところの答えです。
CO2ゼロのごみ処理場についてよくある質問

Q. 煙突から白い煙が出ていてもCO2ゼロなの?
物理的には、白い煙(多くは水蒸気)もCO2も出続けます。「ゼロ」は煙突が空っぽになる意味ではなく、出るCO2と別の場所で取り除くCO2を合わせた「差し引き」がゼロやマイナスになり得る、という意味です。
Q. 生ごみや紙を燃やしたCO2は、なぜ数えなくていいの?
生ごみや紙のもとになる植物が、育つときに大気からCO2を吸っているためです。燃やして出るCO2は「循環して戻っただけ」とみなされ、国際ルールでもエネルギー分野の排出量には数えません。ただし物理的にCO2が出ているのは事実です。
Q. 「ゼロ扱い」なら、生ごみはどんどん燃やしていいの?
いいえ。ゼロ扱いは計算ルールの話で、燃やせば大気にCO2は出ます。森がきちんと育て直されている前提があって成り立つ考え方なので、「バイオマスだから燃やし放題」とは言えません。
Q. カーボンネガティブって、燃やすだけでなれるの?
なれません。バイオマス由来のCO2を回収し、運び、地下などへ長く閉じ込めて、はじめて差し引きがマイナスになります。回収だけで放置したら成立しません。
Q. MOFを使えば電力もエネルギーもいらないの?
いいえ。液を高温で加熱する必要はほぼなくなりますが、排ガスを装置に送り込んだり、圧力を下げてCO2を取り出したりするポンプや圧縮機の電力は必要です。「熱がほぼ不要」であって「エネルギーゼロ」ではありません。
Q. 回収したCO2は消えてなくなるの?
消えません。液化されたCO2という物体として大量に残ります。だから必ず「使う」か「地下にしまう」かの行き先が要ります。使い道がなければ回収の意味が薄れます。
Q. 回収したCO2を燃料に変えれば解決なの?
一時的な効果にとどまることが多いです。CO2から合成メタンや合成燃料をつくっても、それを燃やせばCO2はまた大気に戻ります。炭素の循環を長くする効果はありますが、永久に隔離するわけではありません。
Q. 回収率90%なら、排出ゼロと考えていい?
厳密には違います。90%回収でも残り10%は大気に出ますし、設備をつくったり液化CO2を運んだりする分の間接的な排出もあります。だから「実質ゼロ」「カーボンネガティブ型」という表現のほうが正確です。
Q. ごみ袋代や税金はすぐ上がるの?
今回の実証だけで値上げが決まったわけではありません。設備費や維持費はかかりますが、国の補助制度や自治体どうしの連携で負担を抑える方向が模索されています。補助の割合は事業や年度で変わるため、断定はできません。
Q. 2030年には私たちの街の処理場にも入るの?
2030年頃というのは、分離・回収の設備を「商用化する」目標の時期です。全国のごみ処理場へ一斉に導入される時期ではありません。当面は一部の施設での導入や、回収したCO2を農業・建材に使う地域の取り組みが先行すると見られています。
まとめ
ごみを燃やせば、CO2は出ます。それでも「実質ゼロ」や「カーボンネガティブ」と言えるのは、ごみに含まれる生ごみ・紙・木といったバイオマス由来のCO2を回収し、運び、長く閉じ込めた場合に限られます。
今回のJFEエンジニアリングのMOF実証は、その入り口である「つかまえる」を安くしようとする挑戦です。でも、はこぶ・しまうの関門が残っています。
未来のごみ処理場は、ただごみを燃やす場所ではなく、CO2を集める地域の拠点になるのかもしれません。でも、そのためには煙突の横に回収装置を置くだけでは足りないんですね。ニュースで「CO2ゼロ」の文字を見かけたら、「集めたあと、ちゃんとしまえてる?」と一歩踏み込んで読んでみてください。
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参考・出典
- JFEエンジニアリング「清掃工場の排ガスからCO2を回収するCCUプロセス実証実験を開始」プレスリリース
https://www.jfe-eng.co.jp/news/2023/20231218.html - ふじみ衛生組合「クリーンプラザふじみの概要」
https://www.fujimieiseikumiai.jp/ - 環境省「一般廃棄物の排出及び処理状況等(令和5年度)について」
https://www.env.go.jp/press/press_04561.html - 経済産業省「CCS事業化に向けた先進的取組」
https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/CCS.html - JOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)「国内初のCCS事業化の取り組み 2030年度までのCO2貯留開始に向けて」
https://www.jogmec.go.jp/ - IPCC「2019 Refinement to the 2006 IPCC Guidelines for National Greenhouse Gas Inventories」
https://www.ipcc-nggip.iges.or.jp/public/2019rf/index.html - ノーベル財団「The Nobel Prize in Chemistry 2025」
https://www.nobelprize.org/prizes/chemistry/2025/summary/ - 環境省 熱中症予防情報サイト(暑さ指数など生活関連情報)
https://www.wbgt.env.go.jp/
※本記事の情報は執筆時点(2026年9月)のものです。内容は予告なく変更されることがあります。制度・税務・環境政策の詳細は各所管の公式情報をご確認ください。
